僕は魔道士？ 第2話
僕はウェイトレス？・パラレル編
作：hiroyuki
１３：００
中央エリア・魔道管理局専用演習場
そこに２人の少女が、ＢＵを見に付け、杖を持ち立っていた。
少女の１人が空中に浮かび上がらせた時刻表示を見て呟く。
「もう試験時間だけど・・・何時開始されるんだろう？」
それにもう１人の少女が緊張気味に答える。
「よく分からないわ、第一、試験官がまだ来ていないし。」
実はこの２人は今日この演習場で中級魔道士への昇級試験を受ける事になっているのだ。
少女達の名は、マイカ・ササキとエリカ・リンドバーク。
魔道士の養成機関を卒業後、一年もの間、初級魔道士としての職務を行ないながら、この日に備えていたのだ。
今回この昇給試験に合格すれば、二人は晴れて中級魔道士に成れる。
そうなれば魔道士として様々な可能性が開ける事になるのだから、２人に力が入るのも分かるだろう。
『お待たせして申し訳ありません。今回の試験担当の魔道士から連絡が入りました。到着が遅れるので、先に試験を開始していて欲しいとの事です。』
演習場を管理するＡＩ、１０歳位の幼女の映像が２人に話し掛けてくる。
「・・・了解。マイカ、いい？」
「こっちは何時でもＯＫだぜ。」
笑みを浮かべマイカが言ってくる。
「お願いします。」
『はい、では始めますね、順路は空中に表示されますので、それに従って下さいね。』
ＡＩの映像が消えると空中に矢印が表示される。２人はそれを見ると頷きあい、進む。
壁が崩れ落ちたエリアに入るマイカとエリカ。交互に庇いあうようにしながら周りを監視しつつ進む。
次の瞬間、崩れ落ちていた壁の破片が舞い上がり、小さな砲台のような物が出現し、射撃を開始する。
「ファイアープロテクト！」
マイカがシールド、火で出来た、を展開して小型砲台の攻撃を防ぐ。
「ウォーターナイフ。」
続いてエリカが攻撃、水分で作られたナイフ、で小型砲台を切り刻む。
『第１エリア、クリア。』
「よっしゃー。」
空中に表示が出現し、マイカがガッツポーズを決める。
「はしゃがないでマイカ、まだ始まったばかりよ。」
歓喜を見せる事も無く、エリカは周囲を監視しながら、空中の表示に従い歩き始める。
進むにつれトラップが巧妙になってゆく、一見壁に見える所から飛び出して来たり、天井から不意に落ちてきたり、変哲の無いドラム管の汚水の中から・・・
その度に二人は防御と攻撃を交互に行ないながら進んで行く。
この辺は養成機関時代からペアを組んできた二人にとって造作も無い事だった。
やがて二人は所々陥没していたり壁が無くなったりしている高架橋みたいな所に出る。
「いよいよ最終ステージか・・・何が出てくるのやら。」
少々疲れが出ているマイカがぼやく。
「今までとはトラップのレベルが違うでしょうね。」
表示によればここを抜ければゴールらしい。
エリカは目を凝らして見てみるが、疑えばきりが無いので、トラップを発見するのは諦める。
「佇んでいてもしょうがないわ、マイカ、先行して。」
「ＯＫ、って俺が囮か？」
渋い表情でマイカがエリカを見て言ってくる。
「貴女の方が私より頑丈でしょ？」
おどけて言うエリカ。
「ちゃんと援護するわよ。」
「ったく・・・頼むぜ相棒。」
マイカがそう叫ぶと走り出す、途中魔道力で加速するのも忘れない。
直後、壁が無い所から小型砲台が２機飛び出して来てマイカに砲身を向ける。
「ウォーターナイフ。」
エリカの的確な攻撃が小型砲台を切り刻んでスクラップに変えると、彼女も後を追って走る。
２人は進みながら、瓦礫の下や、崩落して穴の開いた所から現れる小型砲台を破壊して進む。
「見えたぜ！」
そう叫んでマイカがたどり着こうとした瞬間、激しい爆発が手前で起こり、破片が２人を襲う。
「ファイアープロテクト！」
「ウォータープロテクト。」
咄嗟にシールドを展開する２人、何とか破片を弾き飛ばすが、その後から今までとは比べものにならない巨大な物体が現れる。
「ちいい、最後の最後でこれかよ。」
それは小型砲台を幾つも機体に装備した戦闘用ドローンだった。
今までの小型砲台に比べれば火力も砲の数も、そして耐久度も桁違いなものだ。
「マイカ、タイミングを合わせて攻撃よ！」
エリカが叫ぶ。防御しながら攻撃という手は使ってはいられない。
「ＯＫ！喰らえファイアーナイフ。」
「ウォーターナイフ。」
戦闘用ドローンの胴体中央部に２人の攻撃が命中し爆発する。
「やったぜ！」
だが爆発したと見えた戦闘用ドローンは、寸前に小型砲台を分離、マイカに迫ってくる。
「マイカ！ウォータープロテクト。」
咄嗟にエリカがマイカの前に展開させたシールドに小型砲台は衝突し爆発する。
その衝撃にマイカが高架橋から空中へ吹き飛ばされる。
「うわああ！！」
それを見て助けに行こうとしたエリカにも小型砲台が迫る、ドローンはどうやら複数分離していたのだ。
「ウォーターナイフ。」
迫って来た小型砲台をエリカが何とか破壊したものの、マイカ同様に高架橋から空中に吹き飛ばされる。
「エリカ！？」
マイカが叫ぶが距離がありすぎて助けに行けない、いやそれどころか自分自身も体勢を整える事が出来ず頭から地上に落下していく。
「マ、マイカ・・・」
ここまで来て・・・エリカは悔しさに包まれながら体勢を回復出来ないまま落下する。
眼下に迫りゆく地面に前を瞑り衝撃に身構える２人。
「え！？」
だが地面に２人が激突する事は無かった。風に包まれるような感じの中、高架橋に戻されてゆく。
「え、これって？」
「・・・・・」
エリカはふと、高架橋に立つ人影に気付く。
「魔道士だわ・・・」
自分達と同じようにＢＵを身に着け、青い球体の付いた杖を持つ女性魔道士のようだった。
どうやら彼女が助けてくれたようだとエリカは理解したが、ある事に思い当たり慄然とする。
今自分たちの事を助けたのが風のシールドである事は間違い無い、だがそれはあくまで攻撃を防ぐものであり、普通人間がぶつかれば唯では済まない。
だがあの魔道士は人間に向かないシールドで２人を怪我をさせず受け止めてみせたのだ。
しかも２人を一度でだ、普通のコントロール力の持ち主で無理な話だ、だとすれば・・・
「上級魔道士だわ。」
そうとしか考えられない、しかし昇級試験に上級魔道士が出てくるなんてエリカは聞いた事が無かった。
せいぜい中級魔道士ぐらいだろう、第一、上級魔道士達は下の者達に関心など持っていない。
これは養成機関にいた時の話だが、一度上級魔道士が来た事がある。特別講義というものだったが、はっきり言って本人の自慢話を聞かされただけだった。
しかも白けた自分達をその上級魔道士は、これだからお前たちはと馬鹿にした台詞を残し帰っていったのだ。
エリカとマイカだけでなく、他の者達が大いに憤慨したのは言うまでもない。
それだけにこの状況にエリカは戸惑いを覚えるしかなかったのだ。
風のシールドで受け止められ、そのまま高架橋まで連れてこられた２人。
その上級魔道士の前まで来るとシールドが解除され、２人は地に足を着ける。
「お２人とも大丈夫ですね？」
上級魔道士はそう言って２人を見ている、かなり若い女性だ、自分達より少し上の年齢に見える。
女性の上級魔道士は何人も居るが、大概は歳の召した、悪い言い方をすれば、年増な者が多い。
「あ、はい、ありがとうございます。」
取りあえずエリカは礼を言う。
「ありがとうございます！」
マイカの方は、まあ何時もと変わらない。
「それなら良かったです、ああ、遅れて申し訳ありませんでした。」
その上級魔道士がそう言って頭を下げるのを見て２人は驚かされる。
少なくてもエリカとマイカは上級魔道士が頭を下げる所など見た事が無いからだ。
だが上級魔道士はそんな２人の動揺に気付く事も無く、さらに驚愕させる言葉を発する。
「本日の昇級試験担当の木村夏樹です。」
「「き、木村夏樹・・・上級魔道士・・様！？」」
その名前に２人は飛び上がり、文字通りだ、したのだった。
それはそうだろう、魔道士達の中では伝説的な存在、エリカとマイカのような魔道士になって間の無い者達でさえ知らぬ者の居ない人物だ。
（な、何でそんな有名人が私達の昇級試験に？）
激しい混乱にエリカは襲われる、平凡な自分たちの試験にそんな相手が出てきたらそうなるだろう。
「お２人ともご苦労さまでした、試験はこれで終了です。」
その木村上級魔道士の言葉に我に返る２人。
そうだ私達は・・・・最後の失態を思い出し唇を噛むエリカ。
最後のドローンを破壊出来たものの、２人は地面に叩きつけられる寸前に木村上級魔道士に助けられたのだ、どう考えても不合格としか思えない。
（また１年、最初からやり直しかぁ・・・）
溜息を付いたエリカは隣に立つマイカを見る、彼女も俯いて手を振るわせている。
日頃楽天的なマイカにもよく分かっているらしい。
「それでは、マイカ・ササキ初級魔道士、エリカ・リンドバーク初級魔道士、両名に伝えます。」
そのまま結果が告げられるまで待て、そう言われると思っていた２人は俯いたまま、次の言葉を待つ。
「翌１０：００、魔道管理局の第３会議室へ行く事。よろしいですか？」
「え・・・？」
「は・・・？」
予想とは違う事を言われ２人は返事するのを忘れ妙な声を発してしまう。
「あの・・・それって何故ですか？」
暫しの沈黙後、エリカは聞いてみる。
「貴女方２人の中級魔道士承認手続きの為です。」
今度こそ２人は絶句した、後で不合格を突きつけられると思っていただけにその言葉をまったく理解できなかったのだ。
『夏樹、ちゃんと順番に説明しないと、２人共固まってますよ。』
突然、杖に付いている青い球体の上に、美しい女性のバストアップが映し出される。
夏樹のＢＴＳを司るＡＩのクリスだった、エリカとマイカは思わず見つめてしまう。
魔道士の持つ杖には、その本人のＢＴＳを司る為にＡＩが組み込まれている。
エリカとマイカの持つ杖にももちろん有る、魔道士とある程度の会話も可能だ。
だがクリスのように個体イメージを持ち、魔道士に意見を言えるＡＩは例え上級魔道士でも持つ者は限られる。
そしてそんな限られたＡＩを持つ者、上級魔道士の殆んどは多くの機能をオフミットしているらしいとエリカは聞いた事がある。
プライドの高い上級魔道士にすれば、一々意見してくるＡＩなど不必要な為だ。
「ああ失礼しました、僕は魔道管理局・長官から試験担当と合否の判定を任されているんです。」
夏樹のＡＩであるクリスに驚愕していた２人は更に驚愕させられる、彼女はそこまで管理局・長官に信頼されていると言う事だからだ。
（やはり木村夏樹上級魔道士が長官の娘さんというのは本当なのね。）
その話は魔道士では知らぬ者の居ないものだからエリカとマイカも聞いた事はあった。
「ですので、お２人は僕が判定し合格としました。」
エリカとマイカは顔を見合わせる、合格は嬉しいが最後の失態を考えると素直に喜べない。
「あの・・・合格の理由を教えて下さい、私達最後に・・・」
「ええ、最後は確かにミスをされたようですが、それまでの連係は十分合格の内容です。」
エリカの質問に夏樹は微笑んで答える。
「１人で戦うのは辛いものです、信頼出来る相手が居ることを忘れないようにして下さい。」
「「はい。」」
夏樹は、エリカとマイカの返事に満足そうな表情を浮かべる。
「それでは今日はもう帰って結構です、明日は遅れないようにお願いします。」
「分かりました、それでは失礼します木村上級魔道士様。」
「今日はありがとうございました！木村上級魔道士様。」
最後に夏樹が言うと、エリカとマイカは直立不動の姿勢をとって答えて帰って行く。
「信頼出来る相手が居ることを忘れないよう、ですか・・・夏樹らしいですね。」
やり取りを静かに見守っていたクリスが、エリカとマイカの姿が見えなくなるとそう言って微笑む。
「・・・僕はそれを身を持って知ったからねクリスさん。」
クリスに微笑み返しながら夏樹は肩を竦めて見せる。
「お疲れさまです木村上級魔道士様。」
微笑んでいる２人の傍の空中に１人の少女、いや幼女が現れる、彼女は施設管理用のＡＩだった。
「いえ貴女の方こそご苦労さまでした、遅れた間の進行管理には感謝します。」
「はあ、いえどうも・・・」
施設管理用のＡＩである幼女は戸惑ったように答える。
『貴女のマスターは変わってますね、施設管理用ＡＩの私にここまで丁重な態度を取った上級魔道士は初めてです。』
ＡＩ同士の回線を使い幼女がクリスに話し掛けてくる。
『夏樹は例えＡＩであっても区別するような人間では無いですからね。』
それはＡＩだけでなく下級の魔道士や魔道の力を持っていない者に対してもだ。
だから上級魔道士の間では異端扱いを受けているのだが。
『随分と奇特な方ですね、上級魔道士様にしては・・・あ、すいません失礼な事を。』
『気にしてはいませんよ、確かに私もそう思いますから。』
優秀なＡＩであるクリスはその能力故に上級魔道士に厄介者扱いされる事が多かった。
カオスの追跡で夏樹に居た世界に単独で訪れたのは、多分にその事が原因だった。
もっともそのお蔭で夏樹に出会えたのだから何が幸いするか分からないものだとクリスは考える。 何しろ自分にとって最高のマスターを得る事が出来たのだから・・・
こういった夏樹の姿は多分にこちらの世界で生まれ育った訳では無い事も大きいのかもしれないが、やはり本人の資質だとクリスは思う。
でなければ突然現れたクリスの事を疑いもせず一緒に戦おうとはしないだろうからだ。
もちろんその時の夏樹が魔道士やＡＩの事を知らなかったとはいえ。
幸いといえば夏樹が強力な魔道士としての能力を持っていた事も有る、まあそれは彼女の・・・”彼”の母親の存在が大きいのだが。
「それでは僕達は帰りますので・・・クリスさん？」
自分の思考に入り込んでいた、ＡＩとしてはありえない事だが、クリスは夏樹の声に我に返る。
「失礼しました夏樹、帰りましょう。」
片づけを管理ＡＩに任せ、夏樹とクリスは帰路につくのであった。
１５：３０
魔道管理局専用演習場に於ける昇級試験終了。
中央エリア・魔道管理局専用演習場
そこに２人の少女が、ＢＵを見に付け、杖を持ち立っていた。
少女の１人が空中に浮かび上がらせた時刻表示を見て呟く。
「もう試験時間だけど・・・何時開始されるんだろう？」
それにもう１人の少女が緊張気味に答える。
「よく分からないわ、第一、試験官がまだ来ていないし。」
実はこの２人は今日この演習場で中級魔道士への昇級試験を受ける事になっているのだ。
少女達の名は、マイカ・ササキとエリカ・リンドバーク。
魔道士の養成機関を卒業後、一年もの間、初級魔道士としての職務を行ないながら、この日に備えていたのだ。
今回この昇給試験に合格すれば、二人は晴れて中級魔道士に成れる。
そうなれば魔道士として様々な可能性が開ける事になるのだから、２人に力が入るのも分かるだろう。
『お待たせして申し訳ありません。今回の試験担当の魔道士から連絡が入りました。到着が遅れるので、先に試験を開始していて欲しいとの事です。』
演習場を管理するＡＩ、１０歳位の幼女の映像が２人に話し掛けてくる。
「・・・了解。マイカ、いい？」
「こっちは何時でもＯＫだぜ。」
笑みを浮かべマイカが言ってくる。
「お願いします。」
『はい、では始めますね、順路は空中に表示されますので、それに従って下さいね。』
ＡＩの映像が消えると空中に矢印が表示される。２人はそれを見ると頷きあい、進む。
壁が崩れ落ちたエリアに入るマイカとエリカ。交互に庇いあうようにしながら周りを監視しつつ進む。
次の瞬間、崩れ落ちていた壁の破片が舞い上がり、小さな砲台のような物が出現し、射撃を開始する。
「ファイアープロテクト！」
マイカがシールド、火で出来た、を展開して小型砲台の攻撃を防ぐ。
「ウォーターナイフ。」
続いてエリカが攻撃、水分で作られたナイフ、で小型砲台を切り刻む。
『第１エリア、クリア。』
「よっしゃー。」
空中に表示が出現し、マイカがガッツポーズを決める。
「はしゃがないでマイカ、まだ始まったばかりよ。」
歓喜を見せる事も無く、エリカは周囲を監視しながら、空中の表示に従い歩き始める。
進むにつれトラップが巧妙になってゆく、一見壁に見える所から飛び出して来たり、天井から不意に落ちてきたり、変哲の無いドラム管の汚水の中から・・・
その度に二人は防御と攻撃を交互に行ないながら進んで行く。
この辺は養成機関時代からペアを組んできた二人にとって造作も無い事だった。
やがて二人は所々陥没していたり壁が無くなったりしている高架橋みたいな所に出る。
「いよいよ最終ステージか・・・何が出てくるのやら。」
少々疲れが出ているマイカがぼやく。
「今までとはトラップのレベルが違うでしょうね。」
表示によればここを抜ければゴールらしい。
エリカは目を凝らして見てみるが、疑えばきりが無いので、トラップを発見するのは諦める。
「佇んでいてもしょうがないわ、マイカ、先行して。」
「ＯＫ、って俺が囮か？」
渋い表情でマイカがエリカを見て言ってくる。
「貴女の方が私より頑丈でしょ？」
おどけて言うエリカ。
「ちゃんと援護するわよ。」
「ったく・・・頼むぜ相棒。」
マイカがそう叫ぶと走り出す、途中魔道力で加速するのも忘れない。
直後、壁が無い所から小型砲台が２機飛び出して来てマイカに砲身を向ける。
「ウォーターナイフ。」
エリカの的確な攻撃が小型砲台を切り刻んでスクラップに変えると、彼女も後を追って走る。
２人は進みながら、瓦礫の下や、崩落して穴の開いた所から現れる小型砲台を破壊して進む。
「見えたぜ！」
そう叫んでマイカがたどり着こうとした瞬間、激しい爆発が手前で起こり、破片が２人を襲う。
「ファイアープロテクト！」
「ウォータープロテクト。」
咄嗟にシールドを展開する２人、何とか破片を弾き飛ばすが、その後から今までとは比べものにならない巨大な物体が現れる。
「ちいい、最後の最後でこれかよ。」
それは小型砲台を幾つも機体に装備した戦闘用ドローンだった。
今までの小型砲台に比べれば火力も砲の数も、そして耐久度も桁違いなものだ。
「マイカ、タイミングを合わせて攻撃よ！」
エリカが叫ぶ。防御しながら攻撃という手は使ってはいられない。
「ＯＫ！喰らえファイアーナイフ。」
「ウォーターナイフ。」
戦闘用ドローンの胴体中央部に２人の攻撃が命中し爆発する。
「やったぜ！」
だが爆発したと見えた戦闘用ドローンは、寸前に小型砲台を分離、マイカに迫ってくる。
「マイカ！ウォータープロテクト。」
咄嗟にエリカがマイカの前に展開させたシールドに小型砲台は衝突し爆発する。
その衝撃にマイカが高架橋から空中へ吹き飛ばされる。
「うわああ！！」
それを見て助けに行こうとしたエリカにも小型砲台が迫る、ドローンはどうやら複数分離していたのだ。
「ウォーターナイフ。」
迫って来た小型砲台をエリカが何とか破壊したものの、マイカ同様に高架橋から空中に吹き飛ばされる。
「エリカ！？」
マイカが叫ぶが距離がありすぎて助けに行けない、いやそれどころか自分自身も体勢を整える事が出来ず頭から地上に落下していく。
「マ、マイカ・・・」
ここまで来て・・・エリカは悔しさに包まれながら体勢を回復出来ないまま落下する。
眼下に迫りゆく地面に前を瞑り衝撃に身構える２人。
「え！？」
だが地面に２人が激突する事は無かった。風に包まれるような感じの中、高架橋に戻されてゆく。
「え、これって？」
「・・・・・」
エリカはふと、高架橋に立つ人影に気付く。
「魔道士だわ・・・」
自分達と同じようにＢＵを身に着け、青い球体の付いた杖を持つ女性魔道士のようだった。
どうやら彼女が助けてくれたようだとエリカは理解したが、ある事に思い当たり慄然とする。
今自分たちの事を助けたのが風のシールドである事は間違い無い、だがそれはあくまで攻撃を防ぐものであり、普通人間がぶつかれば唯では済まない。
だがあの魔道士は人間に向かないシールドで２人を怪我をさせず受け止めてみせたのだ。
しかも２人を一度でだ、普通のコントロール力の持ち主で無理な話だ、だとすれば・・・
「上級魔道士だわ。」
そうとしか考えられない、しかし昇級試験に上級魔道士が出てくるなんてエリカは聞いた事が無かった。
せいぜい中級魔道士ぐらいだろう、第一、上級魔道士達は下の者達に関心など持っていない。
これは養成機関にいた時の話だが、一度上級魔道士が来た事がある。特別講義というものだったが、はっきり言って本人の自慢話を聞かされただけだった。
しかも白けた自分達をその上級魔道士は、これだからお前たちはと馬鹿にした台詞を残し帰っていったのだ。
エリカとマイカだけでなく、他の者達が大いに憤慨したのは言うまでもない。
それだけにこの状況にエリカは戸惑いを覚えるしかなかったのだ。
風のシールドで受け止められ、そのまま高架橋まで連れてこられた２人。
その上級魔道士の前まで来るとシールドが解除され、２人は地に足を着ける。
「お２人とも大丈夫ですね？」
上級魔道士はそう言って２人を見ている、かなり若い女性だ、自分達より少し上の年齢に見える。
女性の上級魔道士は何人も居るが、大概は歳の召した、悪い言い方をすれば、年増な者が多い。
「あ、はい、ありがとうございます。」
取りあえずエリカは礼を言う。
「ありがとうございます！」
マイカの方は、まあ何時もと変わらない。
「それなら良かったです、ああ、遅れて申し訳ありませんでした。」
その上級魔道士がそう言って頭を下げるのを見て２人は驚かされる。
少なくてもエリカとマイカは上級魔道士が頭を下げる所など見た事が無いからだ。
だが上級魔道士はそんな２人の動揺に気付く事も無く、さらに驚愕させる言葉を発する。
「本日の昇級試験担当の木村夏樹です。」
「「き、木村夏樹・・・上級魔道士・・様！？」」
その名前に２人は飛び上がり、文字通りだ、したのだった。
それはそうだろう、魔道士達の中では伝説的な存在、エリカとマイカのような魔道士になって間の無い者達でさえ知らぬ者の居ない人物だ。
（な、何でそんな有名人が私達の昇級試験に？）
激しい混乱にエリカは襲われる、平凡な自分たちの試験にそんな相手が出てきたらそうなるだろう。
「お２人ともご苦労さまでした、試験はこれで終了です。」
その木村上級魔道士の言葉に我に返る２人。
そうだ私達は・・・・最後の失態を思い出し唇を噛むエリカ。
最後のドローンを破壊出来たものの、２人は地面に叩きつけられる寸前に木村上級魔道士に助けられたのだ、どう考えても不合格としか思えない。
（また１年、最初からやり直しかぁ・・・）
溜息を付いたエリカは隣に立つマイカを見る、彼女も俯いて手を振るわせている。
日頃楽天的なマイカにもよく分かっているらしい。
「それでは、マイカ・ササキ初級魔道士、エリカ・リンドバーク初級魔道士、両名に伝えます。」
そのまま結果が告げられるまで待て、そう言われると思っていた２人は俯いたまま、次の言葉を待つ。
「翌１０：００、魔道管理局の第３会議室へ行く事。よろしいですか？」
「え・・・？」
「は・・・？」
予想とは違う事を言われ２人は返事するのを忘れ妙な声を発してしまう。
「あの・・・それって何故ですか？」
暫しの沈黙後、エリカは聞いてみる。
「貴女方２人の中級魔道士承認手続きの為です。」
今度こそ２人は絶句した、後で不合格を突きつけられると思っていただけにその言葉をまったく理解できなかったのだ。
『夏樹、ちゃんと順番に説明しないと、２人共固まってますよ。』
突然、杖に付いている青い球体の上に、美しい女性のバストアップが映し出される。
夏樹のＢＴＳを司るＡＩのクリスだった、エリカとマイカは思わず見つめてしまう。
魔道士の持つ杖には、その本人のＢＴＳを司る為にＡＩが組み込まれている。
エリカとマイカの持つ杖にももちろん有る、魔道士とある程度の会話も可能だ。
だがクリスのように個体イメージを持ち、魔道士に意見を言えるＡＩは例え上級魔道士でも持つ者は限られる。
そしてそんな限られたＡＩを持つ者、上級魔道士の殆んどは多くの機能をオフミットしているらしいとエリカは聞いた事がある。
プライドの高い上級魔道士にすれば、一々意見してくるＡＩなど不必要な為だ。
「ああ失礼しました、僕は魔道管理局・長官から試験担当と合否の判定を任されているんです。」
夏樹のＡＩであるクリスに驚愕していた２人は更に驚愕させられる、彼女はそこまで管理局・長官に信頼されていると言う事だからだ。
（やはり木村夏樹上級魔道士が長官の娘さんというのは本当なのね。）
その話は魔道士では知らぬ者の居ないものだからエリカとマイカも聞いた事はあった。
「ですので、お２人は僕が判定し合格としました。」
エリカとマイカは顔を見合わせる、合格は嬉しいが最後の失態を考えると素直に喜べない。
「あの・・・合格の理由を教えて下さい、私達最後に・・・」
「ええ、最後は確かにミスをされたようですが、それまでの連係は十分合格の内容です。」
エリカの質問に夏樹は微笑んで答える。
「１人で戦うのは辛いものです、信頼出来る相手が居ることを忘れないようにして下さい。」
「「はい。」」
夏樹は、エリカとマイカの返事に満足そうな表情を浮かべる。
「それでは今日はもう帰って結構です、明日は遅れないようにお願いします。」
「分かりました、それでは失礼します木村上級魔道士様。」
「今日はありがとうございました！木村上級魔道士様。」
最後に夏樹が言うと、エリカとマイカは直立不動の姿勢をとって答えて帰って行く。
「信頼出来る相手が居ることを忘れないよう、ですか・・・夏樹らしいですね。」
やり取りを静かに見守っていたクリスが、エリカとマイカの姿が見えなくなるとそう言って微笑む。
「・・・僕はそれを身を持って知ったからねクリスさん。」
クリスに微笑み返しながら夏樹は肩を竦めて見せる。
「お疲れさまです木村上級魔道士様。」
微笑んでいる２人の傍の空中に１人の少女、いや幼女が現れる、彼女は施設管理用のＡＩだった。
「いえ貴女の方こそご苦労さまでした、遅れた間の進行管理には感謝します。」
「はあ、いえどうも・・・」
施設管理用のＡＩである幼女は戸惑ったように答える。
『貴女のマスターは変わってますね、施設管理用ＡＩの私にここまで丁重な態度を取った上級魔道士は初めてです。』
ＡＩ同士の回線を使い幼女がクリスに話し掛けてくる。
『夏樹は例えＡＩであっても区別するような人間では無いですからね。』
それはＡＩだけでなく下級の魔道士や魔道の力を持っていない者に対してもだ。
だから上級魔道士の間では異端扱いを受けているのだが。
『随分と奇特な方ですね、上級魔道士様にしては・・・あ、すいません失礼な事を。』
『気にしてはいませんよ、確かに私もそう思いますから。』
優秀なＡＩであるクリスはその能力故に上級魔道士に厄介者扱いされる事が多かった。
カオスの追跡で夏樹に居た世界に単独で訪れたのは、多分にその事が原因だった。
もっともそのお蔭で夏樹に出会えたのだから何が幸いするか分からないものだとクリスは考える。 何しろ自分にとって最高のマスターを得る事が出来たのだから・・・
こういった夏樹の姿は多分にこちらの世界で生まれ育った訳では無い事も大きいのかもしれないが、やはり本人の資質だとクリスは思う。
でなければ突然現れたクリスの事を疑いもせず一緒に戦おうとはしないだろうからだ。
もちろんその時の夏樹が魔道士やＡＩの事を知らなかったとはいえ。
幸いといえば夏樹が強力な魔道士としての能力を持っていた事も有る、まあそれは彼女の・・・”彼”の母親の存在が大きいのだが。
「それでは僕達は帰りますので・・・クリスさん？」
自分の思考に入り込んでいた、ＡＩとしてはありえない事だが、クリスは夏樹の声に我に返る。
「失礼しました夏樹、帰りましょう。」
片づけを管理ＡＩに任せ、夏樹とクリスは帰路につくのであった。
１５：３０
魔道管理局専用演習場に於ける昇級試験終了。