星屑の旅人

何処かで軋むような音がしていた。男は辺りを見回し息を飲むと足を進める。
（全くついていないぜ、こんな時に点検とは。）
ぼやいていてもしょうがない、早く終えて帰ろう、と男は思った。
やがて「 エリア階層２１７」という表示が出ている区間に着くと、男は腰のセンサーを引き抜きスイッチを入れる。
「…異常無しか。」
男は呟く。
このところの奇妙な事故で皆、殺気立っている。ほんの些細な事だが、隔壁ひとつ先が地獄という環境では、しょうがない話である。
「さて、と。」
男は次の区間に移動しようとリフトに近づいた。
その時視界の中を何かが動いた。男はそちらを見る。区間の中は工作機械があり視界はあまり良くない。
男は目を凝らし自分の注意を引いた物を探した。だが、それらしい物は見当たらず、ただ暗闇があるだけだった。男は頭を振ると歩きだした。
（神経質になっているな…。）
男はそう考えるとリフトのスイッチを入れた。と、その時、暗闇が動いたように見えた。
いや、実際は何か黒い物体だったが、それが男の背後に迫った。男が気配に振り向いた時、それは目の前に来ていた。男は悲鳴を上げる事さえもできなかった。



闇の中、男が持っていたセンサーが鈍い音を立てていた。だが、それを聞いている者はいなかった。