星屑の旅人

小惑星の漂う中、全長１００メートルクラスの宇宙船が１隻航行していた。船体は航空機タイプのほっそりしたもので、船首部分には「シルフィールド」という船名が記されている。
その宇宙船は巧みに小惑星を避けながら、かなり速いスピードで航行していた。
時々、船体の各所でフィールドに微少な隕石がぶつかる光と、大型の隕石を避ける為の小刻みな制動噴射以外、宇宙船には変化は無かった。
そのコクピットに一人の少女が着いていた。年の頃は１７、８才位か、黒髪の活発そうな少女だった。
彼女は戦闘機の操縦桿とスロットルに似た二つのコントロール・スティックを握り、前方の空中に投影される様々な情報を見ていた。
（もうすぐ到着ね。）
少女は進路の最終確認を終えると満足した表情を浮かべた。コクピットの後方にあるドアが開いたのはその時だった。
「クリス、まだ着かないの？」
そう言って入ってきたのは一人の女性。クリスと呼ばれた少女より年上のようだが、一体年は幾つなのかは、外見からでは分からない不思議な女性だった。長い金髪をアップにして白衣を着ている。
彼女はコクピットに入ってくるとクリスの後ろにシートに座る。クリスは彼女を見ると言った。
「もうすぐ着きます。あと３０分くらいでね、シルビー。」
そう答えるとクリスは笑って聞き返す。
「退屈ですか？」
シルビーはクリスを切れ長の瞳で見つめると、おもむろに肩を竦め、
「こんな星屑しかない所の、どこが退屈じゃないというの。」
そのセリフに、クリスはシルビーとは対照的にパッチリとした瞳で見つめ返して言う。
「私としては、例えどこでも退屈しませんけど。」
シルビーは苦笑いすると、ぼやいてみせた。
「あなたにはかなわないわ。」
二人は声を上げて笑い始める。そうこうするうちに、投影されているスクリーンの一つ が点滅して宇宙船が目的地に着いた事を知らせてきた。クリスは通信パネルを操作しスクリーンに通信メニューを表示し、管制室との通話モードを選択する。数秒後、管制係の顔がスクリーンに映しだされる。
「ハイ、クリスお帰りなさい。」
クリスと同じくらいの年だろうか、赤毛の少女が話しかけてくる。
「ただいま、コニー。ポートへの進入許可をお願い。」
コニーは手元のキーボードを叩きディスプレイを確認する。
「ＯＫ。操縦システムを外部誘導モードにセット、コントロール・ビーコンはブルー１１を選択してください。」
クリスは操縦システムのコントロール・パネルを操作し、外部誘導システムをセットし、続いてビーコンの受信モードをブルー１１に合わせる。するとスクリーンに宇宙船の操縦系統が外部からのコントロールに切り替わった事が表示される。
「外部誘導モード、作動確認。異常無し。」
クリスはスクリーン上の情報を確認し報告する。
「了解、シルフィールド。こちらもブルー１１に乗ったことを確認。速度および進入角度の監視を続行してください。…それじゃクリス、後でね。」
今までコニーの顔を映していたスクリーンがポートの映像に切り替わる。宇宙船シルフィールドはブルー１１で送られてくる誘導情報に従い接近していく。この段階になるとパイロットはする事が無くなる。 とはいえ、接舷するまでは速度および進入角度の監視を行うという仕事は残る。
クリスはポートと様々な情報を映すスクリーンを交互に監視し、緊急モードにいつでも移れるよう緊張する。後ろの席のシルビーも何も言わずスクリーンを見つめる。
やがてシルフィールドは、クリスやシルビーの、そして自分自身の家である、小惑星帯コロニーのポートに接舷した。これでようやくクリスは緊張から解放されるのだった。
「乗客の皆様、本船は無事にコロニー・デルタ１に到着しました。またのご利用をお待ちしております。」
クリスがおどけてアナウンスする。シルビーはベルトを外し立ち上がるとクリスに言う。
「私は今度から歩いて行くわ。そのほうが退屈しないし、健康にもいいわ。」
「残念です。でもまあ、気が変わったらまたどうぞ。」
クリスはそう言って笑うと、船のシステムをすべて待機モードに切り替えて立ち上がる。
「それじゃ、行きましょうか。」
二人はコクピットを出ると、エアロックに向かったのだった。