星屑の旅人

第7章蠢くもの


エアロックを出たクリスは取り合えず動力室へ向う。
「まったくどうなっているのよ・・・今回の仕事。」
歩きながらぼやくクリス。確かに今回の仕事はケチの付きどうしだった。
(まさか・・・・幽霊というわけでもないでしょうけど・・・・)
手にしたライトを前方に向けながらクリスは前進する。
ちなみにクリスは鉱夫達と違い、目に見たものしか信じないタチである。

コンピューター室
マックスと鉱夫は部屋のドアを手動でこじ開け中に入る。
電源が落ちた部屋は非常灯が点いているだけである。
「ロバート・・・どこだ?」
マックスが声を掛ける。
「マックスか?」
部屋の上の方から微かに声がする。
ライトで照らすと梯子の上に出入り口が見える。
「行くぞ。」
鉱夫に声を掛けマックスは梯子を上る。
上りきったマックスにロバートのライトが向けられる。
「この停電は?」
ロバートはライトを下ろすとマックスに聞いてくる。
「それは分からん・・・ったくこんなのばっかりだな。」
マックスは苦い顔をして答える。
ロバートも溜息をつくと倒れている鉱夫の様子をみる。
「とにかくこいつを宇宙艇に運ばないと。」
マックスは頷くと隣で呆然としている鉱夫に声を掛ける。
「おら、ぼっとしとらんで手伝え。」
怪我をしている鉱夫をロバートとマックスが担ぎ上げると、もう一人の鉱夫に背負わせる。
ガサガサ・・・・
その時だった、頭上から聞こえる音に全員が顔を見合わせる。
ガタン!
次の瞬間、何かが床に落ちる音が部屋に響く。

その頃、クリスは動力室に辿り着いていた。
開いたままのドアから中に入るクリス。
がらんとした部屋には誰もいない。
「・・・・・・・・・・」
ライトで室内を照らしていたクリスは発電機を見つける。
近寄ったクリスが点検口から内部を見ると、発電機の内部は焦げて煙を上げている。
「私じゃどうにもどうにもならないわね。」
クリスは溜息を付いて周りを見る。
マックスが残していった工具があちらこちらに落ちている。
「・・・?」
何かを感じライトを天井に向けるクリス。
そこには黒い口を開けた排気口が見える。
その時だった・・・・その暗闇に何かが光って見える。
まるで何かの目のような・・・・
「!?」
クリスは咄嗟に腰の後ろに手を伸ばしスタンガンを引き抜く。
だが、スタンガンを向ける前にその目らしいものは消えてしまう。
スタンガンを暫く構えていたクリスは、溜息を付くとスタンガンを下げる。
「・・・・・・・・」
ガサガサ・・・・
何かが排気菅を走っていくような音が聞こえてくる。
クリスは通信機を作動させてシルビーを呼び出す。
『どうしたの?』
シルビーが緊張した声で聞いてくる。
「そちらは問題ありませんか?」
クリスはスタンガンを腰に戻しながら聞く。
『今の所はね・・・そっちは?』
クリスはライトを排気口に向けながら答える。
「どうも冗談じゃすまなくなってきたみたいですね。」
『それってどういう意味よ。』
クリスの言葉にシルビーが心配そうに聞き返してくる。
「言葉どおりです。ここには私達以外に誰かいるみたいですね。」
今度は携帯端末を取り出しクリスは言う。
『誰かって・・・ちょっと何を言ってるのよ。』
シルビーは訳が分からないといった感じだ。
「ここの排気関係のデータを送ることはできますか?」
クリスは端末を操作しながらシルビーに聞く。
『私には無理よ・・・あんたと違ってコンピューターは専門外。』
通信機の向こうで溜息を付くシルビー。どうも医療以外の機器はダメらしい。
「分かりました・・・そっちは自分で何とかします。」
携帯端末を腰に戻すと動力室を出ようとするクリス。
『だから何が起こっているのよ?』
シルビーのそんな言葉にクリスは一旦立ち止まると、どう答えるか考える。
「そうですね・・・昔見たB級SF映画の世界が進行中というところです。」
クリスはそこで言葉を切る。
「出る時言ったように・・・・生き残るのはシルビーだけかもしれませんね。」
『・・・・・・・・・・』
シルビーは絶句している。
クリスはにこりと笑うとシルビーに答える。
「せいぜい食われないよう祈って下さい。それじゃ・・・」

切れた通信にしばし唖然としているシルビー。
「こういう時にそんな冗談を普通言うかしら・・・」
残っていたコーヒーを飲み干してシルビーはぼやく。
クリスの言っていた、昔見たB級SF映画の内容を思い出す。
あの話では、別の宇宙艇に乗り移った連中は全員消えてしまい、ただ一人残った人間だけが生き残る。
「でも・・・生き残った人間も結局は何時の間にか侵入していた物に・・・・・・って。」
船室を慌てて見回すシルビー。
「たちの悪い話よ・・・・クリス。」
笑えない冗談を言ってきたクリスを恨むシルビーだった。

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