星屑の旅人

第6章トラブル


梯子を駆け上ったロバートはフロアを見渡す。
薄暗い室内にラスターの姿は見えない。
ロバートは、警戒しつつ室内を探す。
やがて設置された機器の陰に倒れているラスターを見つけてロバートは駆け寄る。
「おい、ラスターどうした。」
抱き起こしながらロバートが叫ぶ。
見たところ大きな外傷は見当たらないようだったが、意識を完全に失っている。
足元には持っていた工具が散乱していた。
「うーん。」
頭をさすりながらラスターが意識を取り戻す。
「大丈夫か、一体何があったんだ。」
ロバートは起き上がろうとするラスターを制して、寝かせようとしながら聞く。
「それが、機器を見ようとしたら、突然目の前に何かが飛び出してきて。それを避けようとして・・・」
ラスターは目を閉じ、横になりながら答える。
「そいつが何だかわかるか。」
ロバートが周り警戒しながら聞く。
「分かりません。一瞬のことだったので・・・。」
ラスターはすまなそうに答える。
「しょうがないな、お前は暫く寝ていろ。」
ロバートはそう言って立ち上がる。
「すいません。」
そう言ってラスターは再び意識を失う。
ロバートは無線機を作動させて連絡を取ろうとする。
「シルビー、怪我人だ。至急頼む。」
だが、無線から聞こえるのは雑音のみでシルビーからの返答はない。
「おい、シルビーどうした。クリス、マックス、誰でもいい、応答しろ。」
結局、無線からは雑音しか返ってこない。
ロバートはしばし無線を調整していたが、やがて諦める。
ガサガサ・・・・。
頭上からする妙な音にロバートは持ってきたライトを向ける。
だが、そこには排気口しか見えない。
ロバートは頭を振るとラスターに屈みこんで様子を見始める。
その頭上で何かが蠢いているのことに気付くことなく。

マックスともう一人の鉱夫が飛び出していった後の発電機室でもトラブルが進行していた。
補助発電機の点検口の蓋が開きっぱなしになっていた所に何かの影が近付いていたのだ。
だが、それを見る者はいなかった。

マックスと鉱夫の二人はようやくコンピューター室の前に辿りついていた。
「ったく何がどうなっていやがるんだ。」
マックスは息を切らせながらぼやく。
多少のトラブルは有ると覚悟していたつもりだったが・・。
「おい、ロバート。応答しろ。」
マックスは無線に怒鳴るが、相変わらず雑音しか返ってこない。
「やっぱり、幽霊が・・。」
鉱夫が脅えた声を出す。
マックスは顔を顰めると、そんな鉱夫を怒鳴る。
「くだらんこと考えているんじゃない、第一・・・。」
次の瞬間周りが完全な闇に閉ざされる。
「ひー。」
暗闇の中、鉱夫が悲鳴を上げる。
その悲鳴を聞きながらマックスは今回の仕事が最悪の状態を迎えたことを認識せずにはいられなかった。

携帯端末に鉱内の電力が全て停止したことが表示され、警告音が響く。
「いったい何が起こっているってのよ。」
シルビーは端末の前で頭を抱える。
「原因は分かるかしら。」
クリスはシルビーの後ろから端末を覗き込みながら聞く。
「さあ、ただ止まったとしか分からないわ。」
シルビーの端末は、鉱内の環境状態をモニターした結果しか表示しない。
「つまり行ってみるしかないということね。」
クリスはそう言って船室の隅にあるロッカーに行く。
「行くって、まさかあんた。」
ロッカーを開けながらクリスは肩越しに答える。
「言葉どおりです。行って確認してきます、父さん達のことを含めてね。」
ロッカーから作業服を引っ張りだすと、クリスは服を脱ぎ始める。
あっちからの連絡を待った方がよくない?」
シルビーは服を脱ぎ、アンダーウェア姿になったクリスに聞く。
「このままでは埒があきません。何かあったら即行動する、でしょ。」
クリスはロバートが何時も言っているセリフを真似る。
作業服を着込み、無線機とヘッドセット、そして銃を取り出す。
それを見てシルビーが眉をひそめる。
まあ、銃といっても人を気絶させるスタンガンなのだが。
「エイリアン相手には力不足よね。」
シルビーは両手を頭の後ろで組みながら、銃を服の後ろのホルダーに入れているクリスに言う。
「まさか、ここを吹き飛ばすような武器も持ってゆくわけにはいかないでしょ。」
クリスは苦笑いしながら準備を整える。
「それにそういった武器って、結局は役に立たないと決まっているじゃない。」
バックパックに救急セットや小形の酸素ボンベ、予備のスタンガン用カートリッジを入れ、背中に背負う。
「エアロックの扉は念の為にロックしていきますから。
私が出た後は何があっても開けないようにして下さい。」
クリスはヘッドセットを頭に付け、作動を確認する。
「で、アンタも帰ってこなかったら、私はどうすればいいの。」
ぼやくシルビーにクリスは笑って答える。
「となればシルビーはただ一人の生存者となりますね、映画のように・・・。」
シルビーは顔をしかめて、クリスに言う。
「冗談はよしてよ。だいたい最後の生存者なんて、後でろくな目に会わないと相場が決まってるんだから。」
クリスはそんなシルビーを見て肩を竦めて答える。
「だとすると何としても生き残らないといけませんね。シルビーの為にね。」
エアロックを開け、クリスはシルビーを見詰める。
「冗談はともかく、もし自分に何かあったら宇宙艇の緊急通信システムを作動させて下さい。」
再度装備を確認しながら、クリスは指示をする。
「動かし方は分かりますね。」
シルビーは操縦席の方を見ながら答える。
「大体はね。要は"緊急発信"のボタンを押せばいいのよね。」
自信なさそうに言うシルビーを見てクリスが言う。
「そうです。ああ、間違っても他のを押さないようにして下さい。爆発しますよ。」
クリスはそう言ってウィンクする。
「こんな時の為の最後の手段ですから。」
シルビーはギョっとした表情をする。
「そんなもの在るなんて聞いてないわよ。」
シルビーは宇宙艇のことはよく分からなかったから、思わず聞き返してくる。
だが、そんなシルビーを見てクリスは笑い出す。
「冗談ですよ、自分で自分を吹き飛ばすことなんか誰がしますか。」
そう言って、シルビーが何か言う前に扉を閉めるクリス。
後には憮然とした表情のシルビーが取り残される。
「まったく、親父にそっくりだわ、あの娘・・。」
座り込んで、机に突っ伏すシルビーだった。

トップへ
TOPへ
INDEXへ
INDEXへ
前章へ
前章へ
次章へ
次章へ