星屑の旅人

マックスとロバートはしばらく廊下を眺めていた。
やがてロバートは首を振ると、マックスに話し掛ける。
「呆けていてもしょうがないな、大気の方はどうだ。」
マックスは大気センサーを持ち上げ、スイッチを入れる。
センサーの液晶画面に数値が表示される。
「有毒ガス及び細菌は検知できず、温度も正常、酸素濃度も問題なし。」
マックスは数値を読み上げると溜息をつく。
「２０年もほっといたわりには問題ないな。」
「そうか、シルビーそっちはどうだい。」
ロバートはシルフィールドの船内でモニターしているシルビーに呼びかける。
「こっちでも問題は確認できないわ。まあ、大丈夫でしょ。」
シルビーは何時もの投げやりな調子で答える。
二人は顔を見合わせ苦笑する。
「分かった、ジャックいいぞ、来てくれ」
ロバートは船内に残っていた鉱夫たちに指示を出すと、ヘルメットのバイザーを跳ね上げる。
「ふん、センサーも匂いまでは判断できないか。」
マックスも同様にバイザーを跳ね上げて呟く。
「そうだな、これはしょうがないだろう。」
ロバートは鼻をひくつかせると、後ろから来た鉱夫たちを手招きする。
「それじゃ始めるか。マックス」
ロバートは自分の携帯端末を持ち上げると、６６６号鉱の内部図を表示させる。
「予定通りマックスは発電機室へ行ってくれ。できれば補助発電機を起動できればいいんだが。」
携帯端末の図面をスクロールしながら、ロバートは続ける。
「俺たちはコントロールルームに行く。取り合えず最低の機能だけでも回復させないとな。」
端末を閉じると、全員を見渡す。
「慎重にやってくれよ。２０年前の再現はしたくないからな。」
ロバートの話を聞いていた連中は頷く。
ロバートは鉱夫を一人、マックスは二人を引き連れてそれぞれの目的地へ向かう。
照明がまたたいた。

シルフィールドの操縦室を出たクリスは、操縦室後方の船室に入る。
船室では携帯端末の前で眠たそうな目をしながら、モニターしているシルビーがいた。
「どうですか。皆の様子は。」
クリスはシルビーの後ろから画面を覗き込む。
「問題なんてある訳ないでしょ。まったく、皆映画の見すぎよ。」
シルビーはあくびをしながら、投げやりに答える。
クリスは先ほどのロバートの様に苦笑いを浮かべると、部屋の隅に行く。
「取り合えず、暫くはヒマってことですね。」
鉱山の再開となれば、パイロットのクリスにはやることはあまりない。
「コーヒー飲みますか。」
クリスはコーヒーメーカーを操作しながら、シルビーに聞く。
「お願いね。ああ、濃くしないでね。」
シルビーは片手を挙げて答える。

発電機室に入ったマックス達は、手分けして機器の点検に入る。
「そっちはどうだ。」
マックスは補助発電機に取り付いている鉱夫に聞く。
「機能に問題はないと思いますが。」
鉱夫の答えにマックスは腕を組んで考える。
「点火回路をもう一度点検してくれ。」
マックスはメインの発電機に向かう。
「ＯＫだったら、起動してくれ。」
「分かりました。」
鉱夫はそう答えると、点検を始める。
マックスは発電機のコントロール装置に手を伸ばす。
「！」
かすかな音がして、マックスは振り向く。
だが、その先に有ったのは天井付近にある小さな排気口だけだった。
（気のせいか・・・。）
マックスは首を振ると作業を再開する。
その後ろで何かが蠢いているのに気付くことなく。

そのころコントロールルームでは、ロバート達がコンピューターの点検をしていた。
「やはり、ダメですね。」
鉱夫の一人は顔を上げるとロバートに言った。
「そうか、仕方あるまい。」
ロバートは溜息を付くと部屋を見渡す。
「取り合えずサブのシステムを立ち上げるしかあるまい。」
鉱夫は頷いて工具箱を持ち上げると、部屋の隅にある梯子で上のフロアに上がる。
それを見届けてロバートは無線を開く。
「マックス、そっちはどうだ。」
マックスはぶっきらぼうに答える。
『メインの発電機は持ってきた部品じゃ修理できん。
今、サブの方を起動しているところだよ。』
ロバートはやれやれという顔をすると、マックスに答える。
「こっちも似た様なもんだ。先が思いやられるよ。」
『そのようだな。』
映し出されたマックスも似たような表情をする。
と、部屋の照明が点き、明るくなる。また空調の作動音がし始める。
「ＯＫ、マックス。こっちに合流してくれ・・・・。」
だが、次の瞬間彼らの無線に絶叫が割り込む。その声は上のフロアで作業している鉱夫のものだった。
「おい、ラスター何があった。」
ロバートが怒鳴るが、返答はない。
『何が起きたんだ。』
マックスが慌てて聞いてくるが、ロバートにも答えられない。
「分からん。何かあったみたいだ。」
ロバートは梯子に手を掛けながら、マックスに指示を出す。
「兎に角、こちらに来てくれ。」
『分かった。』
マックスの返事を聞きながらロバートは駆け上る。

絶叫はシルフィールドに残っていた二人にも聞こえた。
「な、何？今の・・・。」
シルビーは危うくコーヒーを噴き出しそうになりながら携帯端末を見る。
クリスは頭に付けていたヘッドセットのマイクに叫ぶ。
「父さん、何があったの！？」
『分からん、ラスターの奴が・・・。』
無線に雑音が入り、声が途切れ始める。
『とに・・こち・・・は。』
「マックス、聞こえる？こっちは父さんと連絡が取れない。」
クリスはマックスを呼び出す。
『こっちもだ、暫く待て。』
「分かったわ。気をつけて。」
マックスの言葉にクリスは心配そうに答える。
事態の急変に二人は言葉もなかった。