星屑の旅人

シルフィールドは小惑星帯を縫うように航行していた。
その操縦は今はコンピューターによる自動システムに切り替わっていた。
自動システムは各種センサーの情報を基に宇宙艇を操っておりパイロットには接舷の時と同様することはない。
ただ、非常事態に備えパイロットはシステム監視の為に待機していなければならないが。

シルフィールの中ではロバートを始めとするお客達は操縦室の後にある船室でくつろいでいた。
「しかし、いまさら６６６号鉱もないだろうにな。」
マックスはコーヒーを飲みながら先ほどのシルビーではないがぼやいていた。
ちなみにシルビーは今回のことで失った睡眠時間を取り戻すといって隣の部屋で寝ている。
「それは言えている。なにしろあの６６６号鉱だぜ。」
『ランバート・トランスポーター』のメンバーと共に６６６号鉱へ向かうメンバーの一人であるベテランの鉱員も頷く。
「でも、あれから２０年たってますからね。いくらなんでも幽霊も何処かに行ってますよ。」
それに対して若い鉱員は気楽なセリフを言う。
「わからんぞ。ずーっとお前さんを待っているかもしれんぞ。」
マックスは若い鉱員を脅かすように言う。
「やめて下さいよ。」
若い鉱員はそんなマックスの言葉に先ほどのお気楽さから一転気味悪そうな表情になる。
一般的な鉱員なら若い連中もベテランも大概はこんな感じである。
縁起をかついだり、ジンクスを気にし、仕事の際の道具類の色にまでも気を使う。
中には方位が（東西南北ではない）が悪いと言って嫌がる連中もいる。
まあ極端な話だが常に危険と隣り合わせで生きている彼らにとっては笑い話ではすまない。
「自分たちが掘らないですむ連中は気楽でいいよ。まったく。」
メンバー全員ため息をつくのを、ロバートは苦笑いしながら見ていた。
（分からんでもないがな。こういう状況じゃ。）
ロバート自身も今回の話は唐突で驚いていた。
（コロニーの自治会のやつら何をあせっているんだか。）
ロバートはコーヒーを飲み干すと立ち上がり操縦室へ向かう。

操縦室ではクリスが自動システムを監視つつ携帯端末で大好きなファンタジー小説を読んでいた。
ドアが開きロバートが入ってくるのに気づくとクリスは顔を上げる。
「あれ、どうしたの。」
ロバートは後部の方を親指で示すとクリスの後ろに座る。
「着く前からあれだからな。確かに気が進まんがね。」
「なるほどね。しかし皆本当に嫌っているのね。」
クリスは後ろの方を見ると苦笑いする。
鉱員ではないが、クリスもここで働く一人であり皆の気持ちは分かる。
「そうだな。」
ロバートもそういって前方表示されているウィンドゥを見る。
「あとどのくらいで着くんだ。」
クリスは軌道データが表示されているウィンドゥを確認すると答える。
「もう着くわね。皆をこっちに来させて。」
そして付け加える。
「気が進まないでしょうけどね。」

シルフィールドは減速しつつ６６６号鉱へ接近していた。
すでに操縦はコンピューターによる自動システムから、支援システムヘ切り替えられていた。
外部誘導システムが通常通り動いている所ではドッキングポートに宇宙艇を自動で接舷
できるが、６６６号鉱は２０年間全ての機器が停止していた所だった。
つまり、全てをパイロットが行わなければならない。
この場合のコンピューターの役目はセンサーや宇宙艇の状況等をパイロットに迅速に伝えてその操作を支援することになる。
その情報を見つつクリスはシルフィールドを操り６６６号鉱のポートに近づいてゆく。
その手並みは鮮やかであり、全てが淀みなく進んでゆく。
まあ、クリスにしてみればこんな操作など日常茶飯事なことなのだが。
だいたい辺境の方は支援システムの不備でこういうことを行うことが多い。
全てが整っている幹線航路とは違うのだった。
ちなみにクリス達辺境のパイロットは、幹線航路のパイロットのことをコンピューターに操縦されている連中と呼ぶ。

ウィンドゥの一つに接近してくるポートの実写映像が映っている。
クリスは操作スティックを微妙に動かしながら最終シークエンスに入る。
やがて画像に表示されている距離の数値がゼロになり艇体に軽いショックが来る。
「さて、目的地に無事到着したけど。」
後ろの連中に告げながらクリスは手早くシルフィールドの機能を待機モードにしてゆく。
「じゃ始めるか。マックスゆくぞ。」
ロバートは立ち上がると後部の船室へマックスと共に移動する。
既に２人とも作業用スーツ（宇宙空間対応）を着ている。
これは一種の宇宙服であり、辺境で働く人々にとっては普段着みたいなものである。
船室を通り作業室へはいった２人はヘルメットを装着しエアロックを開ける。
「ＯＫか。」
ロバートはマックスに確認する。
マックスは親指を挙げ、ＯＫの合図をだす。
ロバートは船内側の扉を閉め、外部扉の操作パネルに手を触れて扉を開く。
開いた先にはポート側の扉があり今度はマックスが操作パネルに手を触れる。
ただし、直ぐには扉を開けるようなまねはしない。
なにしろ２０年近く放って置かれた所である。
センサーを操作パネルに繋ぎ向こう側の状況を確認しなければならない。
「問題ないな。エアロック内部は正常だ。」
マックスは確認を終えると扉を開ける。
宇宙艇に比べるとかなり広いエアロックに２人は入って行く。
「さてと。いよいよだな。」
マックスはロバートにそう言って内部への扉の開閉スイッチを動かす。
電子音がしてトビラは左右に開いて行く。
そしてその先には必要最低限の明かりの点いた廊下が続いている。
２人は何となく顔を見合わせると先に進む。
廊下の先で何か音がした。が２人は気づかなかった。