星屑の旅人

「「生命維持システム　　異常無し」」
「「航法システム　　　　　異常無し」」
「「主推進システム　　　異常無し」」
「「全センサー　　　　　　作動確認」」
前方に浮かんだウィンドに次々に点検項目とその結果が表示されてゆく。
クリスはそう言うと後ろを振り返る。
「じゃ出発します。忘れ物はありませんね。」
クリスが座る操縦席の後ろにある座席に座るロバート達が承諾するように頷く。
「どうでもいいけど、なんで私がいるのかしら。」
いや一人だけ承諾してない者がいた。
「まだ言っておるのか。いい加減諦めたらどうなんだ。」
マックスはギロリとシルビーを睨む。
「私は一週間に二度も宇宙艇には乗らない主義なの。」
思いっきり不快な表情を浮かべシルビーはマックスに言い返す。
そんな二人に苦笑しながらクリスは二日前のことを思い出す。


「幽霊さ。そいつらが妙な事故を起こしたんだとさ。」
「幽霊？」
「？」

父ロバートから６６６号鉱再開がコロニーの自治会で決まったことを聞いて驚くマックス。
そんな彼に驚いた理由を聞いたクリスにマックスはそう言って陰気な表情を浮かべる。
「まあ、ほんとに幽霊の仕業かわからんが奇妙な事故というか事件があったのは確かだがね。」
そう言ってロバートは肩を竦める。
「いったい何があったんですか。」
ミリーがそんな二人を見ながら聞いてくる。
どちらともなく顔を見合わせるロバートとマックスの二人。
奇妙な沈黙が暫く続き、クリスとミリーはますます困惑した表情を浮かべる。
「最初はまあ、個人の私物が無くなるということだけだったんだが。」
ロバートはそう言って説明を始める。
「そのうち採掘機器が原因不明の故障を起こし始めたんだ。」
ロバートによればその故障も最初は単なる偶然だと皆は思っていたらしい。
まして奇妙な紛失事件（それもなぜかライターや筆記具など小物が多かったが。）とは誰も関係あるとは思わなかった。
だがこの奇妙な一件が一部の区域だけではなく、６６６号鉱全体に広がり始めると、鉱員達の間に奇妙な噂が広がり採掘作業が滞るようになっていった。
「その噂というのも、変な影が突然現れたとか変な音が空調システムからするとか。」
マックスが腕を組みながらロバートの後を続ける。
「もちろん原因調査は何度も行われたらしいが、結局突き止めることは出来んかった。」
鉱員達は採掘作業を嫌がり、とうとう６６６号鉱は閉鎖せざるをえなかった。
マックスが話し終わるとオフィスには何ともいえない空気が広がる。
「とんでもない曰く付きの所ね。でもなんで今になって再開することになったの。」
「先月１２９号鉱が事故で暫く使えなくなったからな。その代わりだろうさ。」
クリスの疑問にマックスは憮然とした表情で答える。
「新しいとこを開発するより、遥かに楽だからな。」
ロバートも似たような表情を浮かべて話す。
その時、マックスは何かに気づいたように表情を強張らす。
「おい、まさかその再開を俺たちにやれっていうんじゃないだろうな。」
ロバートはそれに答えず、手に持ったカップを見つめていたが、
「その通りだよ、マックス。まあ再開の為の調査というところだ。」
そう言ってマックスを見る。
「自治会からの正式な依頼というわけだ。」
ロバートは皆を見渡すと深いため息をついて言う。
「断る訳にはいくまい。」

「こちらシルフィールド。出港許可を願います。」
「シルフィールド出港を許可します。クリス気をつけてね。」
「ありがとう。じゃ行ってきます。」
クリスは管制室にそう答えると、補助スラスターを操作しシルフィールドを発進させる。
「だいたい採掘場の再開に医者なんぞ必要ないでしょうが。」
「長い間閉鎖していたんだ。環境チェックの為にお前さんのような奴でも必要だ。」
相変わらず後ろでは続いていたが、ロバートもクリスも気にしない。
シルフィールドには「ランバート・トランスポーター」以外の人間も乗り込んでいたが、その連中も同様だった。
（まあ、一種のコミュニケーションよね。）
クリスの思っていることは、この場にいる者の全員の思いだった。
やがて、シルフィールドは宇宙港のゲートを抜け大海原に出るとクリスは目的地へのコースを航法システムに設定する。
スクリーンに目的地への航路が表示され、所要時間や航路情報が重ねられる。
「６６６号鉱への航路設定よし。３時間で到着の予定。」
そう言って後ろを振り向き、言い争いしている二人に言う。
「じゃれるのはいいけど、二人とも準備ＯＫかしら。」
「誰がこんなのとじゃれるか。」
「それはこちらのセリフよ。」
（息はぴったりじゃない。）
クリスは笑い声を上げると正面を向く。
憮然する二人にロバート達も噴き出す。
そうするうちにスクリーンの一つがコロニーからシルフィールドが十分離れたことを知らせてくる。
再度シルフィールドの状態をチェックしクリスはメインスラスターを点火する。
後部の噴射口から青白い光を発し、シルフィールドは加速する。