魔狼剣・飛雷

「…では、手筈は先ほど申し上げたとおり。くれぐれもお間違えのなきように」
「わかっておる。しかし…本当にこの方法で」
「殿っ！」
蝋燭の灯りのみが闇に揺らめくなか、男は『殿』の言葉をさえぎった。
「もう少し小さな声でお願いいたします」

時は、武士が刀剣にて互いの領地を奪略し合った時代。その中の一つ、小さな領地内の小さな城内で、二人の男が互いの膝が触れ合うほどの近さで話を進めている。
一方は『殿』と呼ばれた男─この小国の城主・ 江原　是正─。相手の男はその参謀─日下部　京介─である。

「これ以上はむやみに言葉を発しませぬよう。どこぞの間謀が忍び込んでいるかも知れませぬゆえ」
「あ、ああ、すまぬ。だが本当に大丈夫か気になってな…」
「殿、これだけは忠告いたします」
日下部は蝋燭の灯を吹き消した。星月の光もない夜、闇の中に彼の声のみが風のように流れる。
「普通の人間では扱えぬ代物、すべては私の計画通りに行えばよろしいのです。余計な詮索は身の破滅ですよ」