僕はウェイトレス？�U

ブルーウィンドに勤めることが決まった飛鳥が、荷物を持って事務室に姿を見せたのは土曜日だった。
「雅美さん、部屋の鍵もらえますか？」
荷物を持って入ってきた飛鳥が雅美に声をかけると、事務机から振り向いて飛鳥に聞いた。
「いつから住みはじめるの？」
「今日から住もうと思って荷物を持ってきたんです。」
そう言って両手の荷物を持ち上げて見せた。
「エッ！荷物はそれで全部なの？」
驚く雅美に笑い返しながら
「ええ、これで全部ですよ、足らない分はあとで買えばいいと思って。」
「そう、まあ確かに買い足せば良いものね。これが部屋のかぎよ。」
雅美が机の中から、かぎを取り出し、飛鳥に渡すと、足もとにあった袋を取り上げ、飛鳥に差し出した。
「そうそう、これは私からのプレゼントよ。」
飛鳥は自分の持っていた袋を足元に置くと、雅美の差し出した袋を受け取りたずねた。
「なんですか、これ？」
「あなたの普段、着る服よ。」
「普段着る服？Ｔシャツとジーンズじゃ、まずいんですか？」
「あなたが住む場所が、普通の場所なら何にも問題ないんだけど、女の子のシャワー室として借りたあの部屋では、男丸出しのその格好じゃまずいのよ。」
「？？？？」
「あの部屋にいるときは、女の子としてすごしてほしいの。」
「な・なんでですか？」
飛鳥が震える声で聞くと、雅美がだめ押しした。
「女の子のシャワー室だもの、男の子がそんなところにいたら誰も使わないでしょ？だから普段から女の子の格好をしている必要があるの。」
「そ・そんな〜、そんな話聞いてないですよ。」
「じゃあ、あの部屋で暮らすのあきらめる？」
「もう叔母さんのところ断ってしまったし、行くところがないですよ。」
「じゃあ、おとなしく女装していてね。」
「ハァ、こんなことならほかを探すんだったかな〜」
飛鳥が小さく文句をいうと、それを聞いた雅美がさらにだめ押しした。
「別にあなたに働いてもらわなくてもいいのよ、かわいそうだと思ったから、あの部屋を使わせてあげることにしたんだから。」
「すいません、すいません。わかりました、あの部屋にいるときは女装します。」
それを聞いた雅美はにっこり笑いさらに付け加えた。
「もちろん、女の子じゃないとばれた場合は・・・、」
「ばれた場合は・・・？」
「もちろんクビよ。」
「クビ！ですか？」
「だから、ばれないように女らしくしてね。」
「わ・わかりました。」
飛鳥は少し震えながらうなずいた。

「荷物がたくさんになったから私も行くわ。」
雅美はそう言うと飛鳥の足もとにあった袋をひとつ拾い上げ、飛鳥に先立って歩き出した。
「部屋の鍵はあなたにひとつ渡します。あと、事務室に置いておくわね。」
そう言いながら、部屋の鍵を開け、中へ入っていく、部屋には前にきたときには置いてなかった、スタンドミラーや、チェスト等が置いてあった。
「チェストには女の子が、替え下着を置いておくけど、それをおかずに遊んじゃだめよ。」
雅美がからかうように言うと、飛鳥は顔を真っ赤にして、
「そ・そんなことしません！」
と叫んでいた。
飛鳥の部屋にも、簡易衣装ケースや、化粧台代わりに小さな鏡が、机の上に置かれていた
「女の子お部屋に化粧品がないのはおかしいから、少し置いておいたけど、後は自分で買ってね。」
「化粧品なんか使いませんよ。」
飛鳥が反論すると、
「あら、女の子なんだから少しは化粧しなければ、おかしいわよ。」
「やっぱり、化粧しないとおかしいですか？」
「そうね、お店では化粧のにおいがすると困るから、ほとんど化粧しないけど。
女ですもの、きれいに見られたいから、ふだんからリップクリームとかはつけてるし、
外出するときはファンデーションをつけるわよ。」
「その、お化粧しないと・・・」
「もちろん、クビ！よ。ただし部屋にいるときは化粧しない子も多いから、ここにいる時は化粧しなくてもいいわよ。」
「ハア、わかりました。」
大きくため息をつく飛鳥を見て、雅美はクスリッと笑った。

「そういえば、今日は近所でイベントがあったから、忙しくなるかもしれないわね。飛鳥ちゃんも手伝ってくれる？」
「え、ええっ。いきなり仕事ですか？」
「いつかは始める事だもの、それが今日でもおかしくないでしょ？」
「そんなこと言っても、心の準備が・・。」
「善は急げって言うでしょ、さあ、着替えて着替えて。」
「そんなこと言っても、このあいだ言われた下着なんか買ってないし・・・。」
「きょう渡した袋の中に３組入っているわよ、それは私からのプレゼントだけど、あとは自分で買ってね。」
楽しそうに話す雅美をちょっとにらんでいると、雅美はさらに声をかけた。
「制服の着方わかる？教えてあげようか？」
「そ・そんな！恥ずかしいから扉の向こうで待っていてください。」
雅美を扉の向こうに押し出すと、雅美からもらった服の袋を探ると、果たして３組のブラとパンティーのセットが出てきた。
一組を手にとって持ち上げると、飛鳥の顔は真っ赤になった。
「ハア、こんなもの着けなくちゃいけないのか。」
一人つぶやいていると、扉の向こうから、
「早くしてね。忙しいんだから。」
雅美の容赦ない声がかかった。
急いで着ていたものを脱ぐと、震える手でパンティーを拾い上げ足を通し、上まで引っ張りあげ手を離すと、それはまるで皮膚のようにぴったり張り付いた。
次にブラを拾い上げ、肩紐に手を通し、後ろでフックを掛けようとするのだが、なかなか掛からない。
「雅美さん、ブラがうまく着けられないんですけど。」
飛鳥の言葉に「あっ」という間もなくドアが開き雅美が入ってくると、顔を赤くしながら、ブラの着け方を教え出した。
「女の子は体が柔らかいから、後ろで留めるけど、あなたは体が硬そうだから、前でフックを掛けて後ろに廻し、それから肩紐に手を通すといいわよ。」
雅美にされるがままになっていた飛鳥が後ろを向くと、肩紐を調整しながら雅美が言った。
「さあ、下着はこれでよし。あとはストッキングを穿いて、制服は衣装ケースにあるから、着てきてね。それにしてもあなたのあそこかわいいのね。」
下半身も下着だけと気づいた飛鳥は小さな悲鳴をあげた。
「キャ！雅美さんそんなことはもっと早く言ってくださいよ。」
飛鳥の抗議など気にしないように雅美は部屋から出て行った。
飛鳥がストッキングをなんとか穿き、衣装ケースから取り出した制服はまるでメイドの制服のようだった
「これどうやって着るのだろう？」
一人つぶやく飛鳥に今度は扉の向こうからアドバイスがあった。
「ワンピースになっているから、頭から被ればいいのよ。」
言われた通りにスカートのほうから被ると、何とか着ることができた。
「ふつうは背中のジッパーを下げて、下から穿くようにするんだけど、今は背中のジッパーが上げられないでしょ？みんなの前ではそうゆう風に着てね。」
「でもジッパーはどうするんですか？」
「バカね。ほかの人に上げてもらうのよ。」
雅美に言われ初めて気が付く飛鳥だった。

「さあ、着替え終わったらお店に行きましょうか。」
雅美に促され、玄関でスニーカーを履こうとする飛鳥に、
「そのスニーカーしかないの？お店で動きやすいようにスニーカーかローヒールのパンプスが良いのだけど、そんなの持っていない？」
「パンプスなんか持ってませんよ。スニーカーもこれしかないですけど。」
「まあ、今日はそのスニーカーでよいけど、もっと女の子っぽいスニーカーを履いてほしいな。」
「あの、それは・・・」
「もちろん男とばれないようにするためよ。ばれたら・・・」
「ハイ、判りました。」
しぶしぶ頷く飛鳥だった。

飛鳥と雅美が事務室に戻ると、時計は１１時２０分を指していた。
お店に飛鳥を伴って姿を見せた雅美は、ウェートレスたちのリーダーである、クリスを呼んでウェートレス達を集めさせた。
「今日からここで働く、飛鳥さんです。皆さん仲良くしてあげてくださいね。仕事の指導はクリスお願いね。飛鳥さん挨拶してください。」
「飛鳥です、よろしくお願いします。」
頭を下げる飛鳥を、ウェートレス達は怪訝な目で見つめていた。
その雰囲気を感じて、雅美がフォローした。
「飛鳥さんは元からこんな声だそうだから、気にしないでね。
あと、女性用にシャワーが欲しいと言う声があったので、近所のアパートを一部屋借りたの、せいぜい利用してね。彼女はそこの管理人みたいなこともやってもらうわ。」
「エッ、シャワーが使えるようになったんですか？汗ばむ季節になったからうれしいな〜。」
運動大好きな裕香が嬉しそうに話すとウェートレス達はみんな頷いている。
「今日もちょっと暑くなってきたから、あとで使わせてもらうわ。ところで、飛鳥ってブラのサイズはいくつ？」
「えーと、Ａ７５ですけど。」
恥ずかしそうに赤くなってうつむいた飛鳥を、胸が小さいことを気にしていると勘違いした裕香は、そんなこと気にする必要など無いとでも言うように
「私とおんなじサイズだね、着替えの下着貸してね。」
と声を掛けた。
そんな会話を横目に雅美はふと気になったことを飛鳥に尋ねた。
「ねえ、飛鳥さん。高校はどこへ通うことにしたんですか？」
突然、話を振られた飛鳥は、
「まだ１学期も始まったばかりだし。転校はむずかしそうなので、当分休学にします。」
いともあっさりと答えた。
「飛鳥ちゃんて、何年生？」
今の話を聞いていた、面倒見の良いエリカが尋ねると、
「今年高校２年生です。」
飛鳥の答えを聞いて、
「私と裕香ちゃんが、高校３年なの。よかったら復習を兼ねて一緒に勉強しない？」
「エリカさん頭良いからいろいろ教えてもらおう！」
飛鳥が反応する前にすでに勉強会が行われることになってしまった。
「飛鳥ちゃん、部屋って近所なんでしょ？勉強会するくらいの場所あるのかな？」
飛鳥が頷くと、
「じゃあ、そこで勉強しましょう。」
「いいな〜、一人暮らしなんて。僕も一人暮らししたい。」
「裕香じゃ無理無理！部屋中ゴミだらけになっちゃうよ。」
勉強する場所もなし崩し的に決まってしまっていた。

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次回予告（未定だけど）
裕香に引き連れられてお買い物。
目的物は・・・。
次回をお楽しみに。