トワイライトクライシス

銃の音がする。ロベリヤは穴を掘って夕食の後片付けをしていた手を止めて４ＷＤ車の方を見る。
「肩の力を抜いて････」
エリカの声がする。穴を埋めるとロベリヤは４ＷＤ車に向う。
「それでいいわ。標的に集中して」
ユーリーが銃を持ち標的代わりの缶詰の空き缶に向けている。
その傍らでエリカがあれこれと指導している。
ロベリヤは何も言わずその光景を眺める。
「自分がいいと思ったら撃ちなさい。」
「はい。」
ユーリーはゆっくりと息を吐くと引き金を引く。

バン！

発射された弾丸が缶を掠める。
「まだ肩に力が入っているわね。」
エリカがユーリーの肩を軽く叩いて言う。
「それじゃもう一度。」
ユーリーは銃を構える。
「よく標的を見て･･･そして撃つ。」

バン！

今度はちゃんと空き缶を打ち抜く。
「ほー、たいしたもんだ。」
ロベリヤが口笛を吹いて打ち抜かれた空き缶を見る。
ユーリーの持っている銃は護身用の小型銃ではなく、オーガー用の大型拳銃だった。
「しかし何を始めたかと思ったぜ。」
ポケットからタバコとライターを引っ張り出し、ロベリヤは４ＷＤ車に寄りかかる。
「ハンターにでもなるつもりかい。」
タバコを一本くわえてライターで火を点けるロベリヤ。
「一応もしもの為です。」
ユーリーは銃を下ろすと汗を拭いながら答える。
「何かあった時に対処できるようになっておきたいんです。」
その言葉にエリカが苦笑いしながらロベリヤに言う。
「というわけで突然"射撃を教えて"と言われちゃってね。」
「ふーん。」
ロベリヤはタバコを吹かしながらユーリーを見る。
３人は既に村まであと１日の位置に来ていた。ここまで来ればあまりオーガーの心配をしなくてもいい。
翌日の朝に出発すれば、昼頃には村に着く。ハード旅も終盤である。
「とりあえず荒野での寝泊りもお終いってわけだな。」
ロベリヤは２本目のタバコにライターで火を点けながら言う。
「そうね、少なくとも影に脅えて寝ることもないでしょうから。」
飛ばされた標的代わりの空き缶を再び岩の上に置きエリカが言う。
「１週間も寝袋に寝てるせいで体があちこち痛くなったぜ。」
ロベリヤはタバコを投げ捨てぼやく。そして体の節々を揉む。
「でもようやく着きますね。長かったです。」
拳銃に新しいマガジンを装着しながらユーリーは二人を見る。
彼女にしてみれば、村を出て、エリカ達の街にたどり着き、クスリを調達し、帰りの足を確保して･････
早や１ヶ月も過ぎているのだ。そう思ってもしょうがないだろう。
それを分かっているのか、エリカはユーリーの元に歩いて来て言う。
「まあ、ユーリーが一番苦労したということね。」
「それほどではありません。それにここまで戻って来れたのはお二人のおかげですし」
ユーリーは照れながら答える。
「感謝しきれません。」
エリカはその言葉に笑い返しながら言う。
「仕事だからね、私もロベリヤも。」
ロベリヤもその言葉に頷く。
「それでも、です。どんなに言葉を尽くしても言い切れないくらいです。」
ふと、その表情に寂しさを浮かべるユーリー。
「･･･村に着いたらお別れですね。」
その言葉にエリカとロベリヤは顔を見合わせる。
「１週間とはいえ、寝起きを共にし、色んな危険を乗り越えてきたんですね。」
ユーリーはそう言って二人を見る。
「確かに波乱万丈な旅だったな。」
そう言いながらロベリヤが３本目のタバコを引っ張り出す。
「貴方も頑張ったわね。普通の人間でここまでついて来れないわよ。」
エリカはユーリーの横に戻って来て言う。
「こんな旅、普通の連中はしたくはないだろうな。」
火を点けたタバコを旨そうに吸いながらロベリヤが笑う。
「確かに普通の人間はそんなことしようなんて考えもしないでしょうね。」
ユーリーに拳銃の持ち方を指示しながらエリカは言う。
「だから大したものよ貴方は。」
そう言われユーリーはそっと呟く。
「じゃ私、ハンターになれますか？」
「え？」
エリカが聞き返す。
「あ･･･いえ何でもありません。」
ユーリーは慌てて答える。
「そう･･･ならいいけど。」
何を言われたのかよく聞き取れなかったエリカだったが、それ以上聞かないことにする。
二人は暫く拳銃の練習をした後、片付けをしてロベリヤと共に休むのだった。

翌朝起きた3人は朝食を取ると、荷物をまとめ出発した。
道は荒れ果てていたが、オーガーの出現はあまり心配する必要はない。
途中隊商に出会い、ちょうどいいからと予備の燃料や弾丸を買い求めた。
その途中････
「おじさん、これ幾らになるの？」
エリカは隊商の持っていた銃器の中から１丁手に取ると隊商の主に聞く。
それはオートのショットガンだった。
「何だエリカ、そんなの欲しいのか？」
ロベリヤが不思議そうに聞いてくる。
「既にサブマシンガンがあるじゃないか。」
そのショットガンの動作を確認しながらエリカは答える。
「まあね。でも今はあなたがいるからね。バックを気にしないでいられる。」
ショットガンなら一発で複数の目標を撃てる。威力は近距離ではサブマシンガンに劣らない。
その分装弾数が少ないが、バックで援護してくれる人間がいればそんなに気にならない。
そうしてショットガンを気にいったエリカは弾丸と共に購入する。
この後、隊商の人々から付近の情報を聞く。
「いたって平穏さ。まあ、あとはオーガーにでも聞いてくれ。」
礼を言って隊商と別れる３人。目的の村まであと僅かだった。

しばらく走っているうちに、前方に塀に囲まれた家々が見えてくる。
「あれです。あれが私の村です。」
窓から顔を出しユーリーが叫ぶ。
村としてはかなり小規模な感じである。ここからでも家々の煙突からの煙が見える。
谷を迂回し４ＷＤ車は村の入口へ向う。
入口には頑丈そうな門と見張り台が見える。
こういうところはエリカ達の街と変わりがない。
その見張り台の下に４ＷＤ車を止め３人は降りる。
「誰だ？」
見張り台の上から警戒感の篭った声がする。めったに人の来ない村なのだろう、姿を見せず銃を向けて聞いてくる。
「ユーリーです。開けて下さい。」
「ユーリー？ほんとにユーリーか。」
見張り台の上から男が驚いた顔で見下ろしてくる。
「はい。薬を手に入れて来ました。この人たちは護衛を頼んだ方々です。」
男は、ユーリーとエリカ、ロベリヤを交互に見る。
「ちょっと待ってくれ。」
男はそう言って見張り台の奥に行く。多分、村の中と連絡を取っているのだろう。
そしてしばらくすると戻って来て３人に言う。
「分かった。今、門を開ける。」
鍵が外され門が内側へと開いてゆく。
それを見ながらユーリーがエリカとロベリヤの二人に向って言う。
「ようこそフォリィーの村へ。歓迎します。」

それは波乱に満ちた旅の前半が終了した瞬間だった。