僕はウェイトレス？■学園編■

「それでは我がクラスは、文化祭でメイド喫茶を行うことに決定しました。」

クラス委員長の言葉に１−Ａの生徒達は、一人を除き歓声をあげる。
「こりゃ楽しみだぜ。」
「当日が待ちどおしいわ。」
「とっても似合うでしょうね。」
「デジカメ持ってこないといけないぜ。」
ヒートアップする生徒達。だが、ただ一人歓声を上げなかった生徒が、悲痛な声を上げる。
「だからちょっと待って！僕の意見は････」
「「「「もちろん却下！！！」」」」
クラス全員の心を一つにした言葉に、その生徒は沈黙させられる。
「･･･というわけで、よろしくね、ナツキちゃん。」
その瞬間、１−Ａの文化祭の出し物はメイド喫茶となり、木村夏樹の運命は決まったのだった。
そもそも何故こんな事になったのか？それを説明するには、少し時間を遡らないといけない。

怒涛の（？）体育祭も終わり、季節はいよいよ秋深くなったある日。
授業時間を潰してある話し合いが行われた。
「今日の議題は、いよいよ間近に迫ってきた、文化祭のクラスの出し物についてです。」
教壇に立ったクラス委員長が教室内を見渡して言う。そう、御崎高校は文化祭の季節を迎えていたのだ。
毎年１１月上旬の土曜日を挟んだ３日間に開催される御崎高校文化祭は、この辺では結構有名だった。
何しろクラブの発表（文化及び運動部全て）はもちろん、各クラス単位の参加も盛んで、内容もバラエティーに富んでいる。
その為、一般公開日となる土日は、近隣の人達も数多く訪れるほどだ。
「何かやりたいものがあれば発表して下さい。」
クラスメイト達はざわざわとし始める。よほど無謀な物で無い限り、教師側も認めてくれるから、大概の事は出来る。
やがて一人一人手を上げて発表し始める。
「お化け屋敷がいいと思います。」
「劇をやったらどうだ。」
「皆で不用品を持ってきて、フリーマーケットは？」
様々な意見が出てくる中、やはりこれが出ないと、という物が遂に上げられる。
「喫茶店はどうでしょうか。」
その意見にクラス全体が沈黙し、皆顔を見合わせる。
まあこれは仕方がないだろう、飲食店をやるのは結構骨がおれるのだ。
飲み物や軽食を準備し、しかも食中毒を起こさないように注意せねばならない。
それに接客だって大変だ。お金の管理だってある。
それを考えると容易に出来るものではない事は、誰もが理解できる。
「･･･それは難しいかもしれませんね。第一、許可を得るのが大変ですから。」
クラス委員長もため息を付きながら言う。こういった飲食店的なものをやるには、学校に認可をして貰わなければならない。
しかも結構条件は厳しい。経験者が居れば楽なのだが・・・・
･･････ん？経験者？
クラスメイトの目がある人物に集まってゆく。
「な、何かな？皆････」（汗）
そう居るではないか。食品の扱いや接客の経験を持つ、現役の････ウェイトレスが。
「そうよ、ナツキちゃんがいるわ。」
「確かに彼女なら大丈夫だわ。」
「何しろブルーウィンドのカリスマウェイトレスだしね。」
突然名指しされ、慌てるカリスマウェイトレスこと、夏樹。
「何？そのカリスマウェイトレスって･･･というか僕！？」
まさか自分に掛かってくるとは思っていなかった夏樹は突然の指名に面食らってしまう。
実は、クラスの出し物にはあまり関係ないと思っていたのだ。というのも彼女（笑）は美術部に所属しているからだ。
一応建前では、クラブ所属者はクラスの出し物に関しては、深く関わらなくてもいいことになっていた。
まあだからと言って何もしないというのは問題あるから、形だけでも手伝わないといけないのだが。
「第一、僕は美術部の方が････」
「でもナツキって展示用の絵はもう完成しているじゃない。」
クラブの方があって･･･と言おうとした瞬間、それを遮る声。同じ美術部の佐藤翔だった。
「いや、でも当日の受付･････」　
「ナツキちゃんは免除するって、三枝部長言っていたわよ。」
同じく紅林めぐみ（通称メグ）が答える。
夏樹の誤算は同じ美術部員がクラスメイトにいることだった。これで逃れる術は無くなった。
「ではお願いするわね木村さん。」
「･････はい。」
退路を完全に塞がれ、夏樹は項垂れるしかなかった。しかし、彼女（？）の不幸はこれだけでは済まなかった（笑）。
「でもただの喫茶店では面白くないぜ。」
男子のクラスメイトが立ち上がって言う。その発言に他のクラスメイト達も賛同する。
「じゃあ具体的にどうしようと言うのかしら。」
聞かれた男子がにやりと笑みを浮かべる。夏樹はそれを見て嫌な予感に襲われる。そして大体にしてそれは当たる。
「もちろんメイド喫茶さ！」
さっきとは別の沈黙がクラス全体に落ちる。半分は呆れた為、半分は邪な事を考えた為。
ちなみに前者は女子、後者は男子だ。
「いや･･･それはちょっとマニアックだと思うのだけど････」
クラス委員長も、こちらは露骨には出さないが、呆れた雰囲気だった。
考えてみればメイドというからには女子がやることになる。コスプレ好きならいざ知らず、普通の人間は引くだろう。
しかし、事態は次の一言で劇的に変わる。
「だって木村が参加するってことは、彼女もメイド姿になるんだぜ、絶対似合うって！」
その言葉がクラスメイト達に与えた衝撃は大きかった。皆夏樹のメイド姿を簡単に想像出来たからだ。
何故なら、ブルーウィンドのウェイトレスの制服はメイド服そのものではなかったが、非常に似ているからだ。
その為、巷ではメイドタイプの制服を持つ、レストランとして結構有名なのだ（夏樹は知らなかったが）。
「み、皆･･･まさか？」
夏樹は恐怖に駆られて周りのクラスメイト達を見る。そんな彼女を見るのは、期待に（一部は欲望に）満ちた目。

「それでは我がクラスは、文化祭でメイド喫茶を行うことに決定しました。」

歓声に包まれた教室で、夏樹は絶望に震えるのだった。だが絶望は始まったばかりだったのにはまだ気付いていなかった。

１−Ａはメイド喫茶を行うこと、それに夏樹が参加すること、は瞬く間に学校だけでなく、ＮＦN（ナツキ・ファン・ネットワーク）を通じて外部まで広がった。
そして様々な思惑を秘めた人々が動き出す。
ある者はお祭り気分で、またある者は愛する者（笑）の為に、そして･･･････

「これは楽しみだわ。」
文化部クラブ棟、演劇部の一室。その女子生徒は、にやりとした笑みを浮かべて言う。
周りには文化祭で演劇部が使用する衣装が置かれている。全てその女子生徒がデザインしたものだった。
それはとても一学校の文化祭で使用される物とは思えないほど、完成度は高かった。
御崎高校演劇部は演技力の高さだけでなく、こういった衣装などの面でも高い評価を得ている。
「是非とも私のデザインした衣装を着てもらうわ････そしてその姿を永遠に残すのよ木村夏樹さん。」
手にしたビデオを掲げその女子生徒は更に笑みを深くする。

彼女の名は、大文字美都子。今回の台風の目となる人物であり、彼女もまた夏樹の運命を握る一人となるのだった。
もっともこの時点では、夏樹も彼女もそれには気付いてはいなかった。

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感謝の辞
演劇部・衣装係の大文字さんは、人面コアラさんから頂いた設定を元にしております。
人面コアラさんありがとうございました。
なお、ストーリの関係上、設定を多少変えますが、ご了承願います。