僕はウェイトレス？■学園編■

郊外に広がるこの遊園地は、近隣ではその規模で有名なところだった。
休日ともなれば多くの人で一杯になる。家族連れや恋人達で…
既に入場券売り場には長蛇の列が出来ていた。
「入場するだけで大変そうですね。」
その光景を見て夏樹が呟く。３０分は待ちそうな感じである。
「大丈夫。ほらこれ…」
美沙はそう言ってポケットから入場券を取り出す。
「でも、それって悪いですよ。」
恐縮する夏樹に美沙は手を振って言う。
「いいの。こういうのは男が出すんでしょ。」
「え…と。」
美沙の言葉に固まる夏樹。
確かにこの状況ではそうなのだが。
正直いって嬉しくはなかった。
（ああ、普通なら逆なのに…）
何だかこの状況にだんだん馴染んできているようで夏樹は気が重い。
「何しているの？行くよ。」
美沙は夏樹の肩に手を回すとゲートに向って歩き始める。
「「あー！！！」」
「へっ？」
絶叫（？）が聞こえた様な気がして夏樹は周りを見渡す。だが人が多く誰かは分らなかった。
（何だろうさっきから？）
夏樹は首を捻る。（ずっと誰かに見られている様な？）
それもかなりの数の人に……
考え込みながら夏樹は美沙ともにゲートをくぐって遊園地に入っていった。

そしてクリス・恵理香・裕香のウェイトレス３人組は…
「ったく、あんた達ねー…！」
恵理香と裕香を自動販売機の陰に引きずり込んで（笑）クリスは呆れていた。
「何度同じことすれば気がすむの。」
恵理香たちは電車の中と同様、親しげな2人を見て絶叫したのだった。
「もが･もが･もが（ナツキちゃんの肩に手を）！！！」
「もがー（許せませーん）！！」
クリスに手で口を押さえられながらも暴れる恵理香と裕香。
さすがのクリスもこのメンツで来た事に後悔し始めていた。
（面白いモンが見れると思ったんだけどな…）
もっとも2人を焚きつけたのは他ならぬクリスだったのだから、自業自得だが。
「おっと、とりあえず追っかけるわよ。」
ゲートに消えた二人を見てクリスは2人の口から手を離す。
「でも入場券を買っていたら二人を見失ってしまいますわ。」
ようやく喋れるようになった恵理香が入場券売り場を見て言う。列はさらに後方に伸びている。
「ノープロブレン、まっかせなさい！これを見て。」
クリスは何時の間にか手に三枚の入場券を持っていた。目を丸くする恵理香と裕香。
「うふふ…私のプランに抜かりはないわ。」
それを見て感嘆の声を上げる裕香。
「はー、凄いですクリスさん。」
「まあね。あ、ところで代金は後でお願いね。」
突然偉そうな態度から哀願口調になるクリス。こける2人。
「だって給料日前だったしね。あははは。」
頭を掻いて笑うクリス。恵理香と裕香は深い溜息を付く。
「では、追跡続行！」
そう言ってゲートに向うクリス。その途中何かに気付いたように回りを見渡す。
（そういえばあの時、絶叫が他でも上がった様な気がしたんだけど…？
…ま、気のせいね…）
が、しかしそうではなかった事に彼女は気付いていなかった。
とにかくクリスたちは入場券を係員に渡し、ターゲットを追いかける。

ゲートを抜けた美沙と夏樹は興味深い顔をして辺りを見渡す。
あたりは広場になっており多くの人が行き来している。その広場をぐるりと囲む様に立つ各種ショップ。
幼い時に来たころとあまり変わらないその風景に夏樹は自然と顔がほころぶ。
「さてと…ナツキちゃんはどこか行きたいとこあるかな？」
美沙が夏樹に聞いてくる。
「そうですね…美沙さんはどうなんですか？」
美沙は少し考えるとニコリと笑い言う。
「やっぱり遊園地といえばこれね。」
そう言うと夏樹の手を取って歩きはじめる。
「えっと…美沙さん？」
夏樹は戸惑ってしまうが美沙は気にもしない。そしてその先にあったのは…

「あーーーーーーーー！！！！！」
上に下に振り回され絶叫をあげる夏樹。2人は絶叫マシンと言われる物に乗っていた。
「あはははは」
対して美沙は嬉しそうな声を上げている。
やがてマシンから降りてくる二人。夏樹は完全にグロッキー状態だ。
（わ、忘れてた…この手の乗り物苦手だったのに…）
幼児の頃初めて乗って酷い目にあったのを今頃思い出す夏樹。
「うーん、いまいちだったかな。」
恐ろしいことを言う美沙。
「よ、よく大丈夫ですね…」
夏樹はふらつきながらそんな美沙に言う。
「まあね。結構好きだからね、こういうの。」
にこやかに笑う美沙を見て夏樹は溜息をつく。
「僕はダメですよ、情けないけど…」
美沙に手を貸してもらいながらベンチに座る夏樹。
端から見ると絶叫マシンに酔った彼女を介抱する彼氏の図である。
（はっ、これってまったく逆じゃ…）
それに気付きガーンとなる夏樹。
もっとも外見的にはそれほど違和感はない。本人は思いもしてないようだが…

一方、それを見ていたクリス一行。
「だ・か・ら・落ち着きなさいって。」
暴走しそうになる2人をクリスが必死に押さえ込んでいたのだった（笑）。
「うーーーー。」
「でも…」
恵理香と裕香としては、飛び出して行ってナツキを悪の手から引き離したいのだが。
（でもまあ似合っているわよね。まさに美男美女の組み合わせだし。）
2人を押さえ込みながらクリスはそんな感想を持った。
「それにしても…」
クリスは周りを見渡して思った。夏樹たちのベンチを囲んでやたらに人が多い気がする。
しかも女の子のグループが目立つ。しかも皆携帯を持って…
（一体何が起こってるのかしら。）
クリスもさすがに周りのただならぬ雰囲気を感じ始めていた。
もっともそれが夏樹のファンクラブ（笑）によるものだとはまだ気付いていなかった。

状況は第二段階に入ろうとしていた。