巫女遊撃隊

NO.04


自分の部屋のベッドに寝かされた少女。
穏やかな寝顔を浮かべる彼女は、神々しいまでに美しかった。
腰まである美しい黒髪、神秘的な緑色の目。その姿は傍に佇んで薫を見ている慧によく似ていた。
元々薫は従姉妹である慧によく似ていると言われていたが、彼の姿が女性化したせいで、今や姉妹と言われても違和感はない。
その枕元には鞘に収められて置かれた刀・・・御神刀。あの後、真一や慧が触っても何も起こらなかった。
「あそこに御神刀があったのは聞いていましたけど・・・まさかこんなことが起こるなんて。」
今や眠る少女となった薫を見ながら慧は呟く。『封印の巫女』である彼女は、謎の女性が残したとされる御神刀を所持している。
この御神刀によって『妖』を封印するのが『封印の巫女』としての慧の役割だった。しかし、御神刀がこんな力を秘めているとは・・・・
ふと時計を見た慧はそろそろ夜が明けることに気付く。疲れを感じるが、寝るわけにもいかない。
ちなみに父親の姿はここに無い。この事件の謎を解き明かそうと、宝物庫に篭り、残された書物を調べている。
だが時間が掛かるだろう、何しろ膨大な量がある。

「う・・・・うう・・ん・・・・」
薫がそんな声を上げて、目を薄く開く。まだ意識がはっきりしていないのか、目の焦点が合っていない。
「薫君・・・・」
掛けられた慧の声に、焦点が合ってなかった目が、はっきりとしたものに戻り、周りに向けられる。
「え・・・慧さん?・・・僕は・・・」
視界に慧を捕らえたのか、薫が彼女の顔を見て状況を把握しようとする。
「気分はどう?どこか苦しいところはあるかしら?」
額に手を置いて慧が聞いてくる。その手の冷たさに気分がすっきりするのを感じ、薫は目を細めて言う。
「はい・・・何だか身体がだるいですけど、気分は悪くありません。・・・慧さん何があったんですか?」
「覚えていないの?」
「はい・・・・そういえば夜中に起きて、何か光を見て・・・・それから・・・どうしたんだろう?」
「・・・・・・・」
どうやら祠での一連の出来事は覚えていないようね・・・・慧は必死に記憶を探る薫を見て思った。
「・・・・何だか夢を見ていたような・・・誰かが僕に・・・でも光を見た後の記憶・・が・・・?」
薫の言葉が途中で止まる、別に言葉に詰まったわけではないことは、顔に広がる困惑の表情でわかる。
さすがに自分の声の違和感に気付いたのだろう。彼がいくら女の子っぽいといっても、声は元々男声だったのだから。
「あの・・・慧さん・・・何か声が変なような気がするんですけど。」
「今の貴方では・・・変ではないんだけどね・・・第一それを言ったら声だけじゃすまないし。」
「・・・・それってどういう意味ですか?」
慧はどう答えたものかと迷った。はっきりと言うべきだろうか?『身体が女の子になっている』と・・・・
実は、薫をここに運び込んだ後に慧は、祠で見たものが間違いないか彼の身体を調べたのだった。
従兄弟同士とはいえ、年頃の男の子の身体を調べるというのには、慧もかなり抵抗があった。
が、もし彼女の懸念どおりだったとしたら、まさか父親にそれをさせるわけにもいかなかった。
躊躇しつつも調べた慧は、結局は自分の懸念が現実だったことを知ることになる。
「落ち着いて聞いて欲しいの薫君、貴方の身体はね・・・・」
そこまで言った慧は、突然困惑した表情を浮かべている薫の手を取ると、彼自身の胸に触らせる。
「!!??」
慧の行動に怪訝な顔をしていた薫は、次の瞬間手と胸からした感触に驚愕させられたようで、慌てて自分の胸元を見る。
「な・・・・慧・・さん?」
(それは驚くでしょうね。)
見事パニックに陥って、今度は自分の手で身体をあちこち触り始める薫を見て、慧はため息を付く。
「な、無い!?」
何が、とは聞かなかった。実は慧も下着の上からだが、目視で確認していたのだ。その行為を思い出し赤くなる。
薫の身体は外見的には慧と同じ女性のものだった。華奢な体つきは変わらないが、全体的に丸みを帯び、手足も更に細くなっている。
それに何と言っても、その胸にある、男性には絶対ない筈の膨らみ、慧より小ぶりだが形の良いそれは紛れも無く女性の証。
自分だってそれを確信した時は意識が飛びかけた、何しろ男の子と思っていた従兄弟が、従姉妹の女の子になったのだから。
だから薫のパニック状態も理解できたが、このままにしておくわけにはいかない。
「落ち着いて・・・って言っても無理かもしれないけど、気を確かに持って。」
薫の両頬を自分の両手で挟むと、慧は彼(今は彼女だけど)の目をじっと見つめて話しかける。

「何があっても私が貴方を守るわ・・・だからお願い、私を信じて・・・」
「・・・慧さん・・・」
パニックに陥っていた薫君はようやく落ち着きを取り戻し、私の顔を見ていたが、突然顔を赤くして、目を逸らす。
「あの・・・慧さん顔が近すぎるんじゃ・・・」
そう今の私達の体勢はまるでキス寸前の状態だった。だが、恥ずかしがるそんな薫君の姿に思わず私は・・・・
「ちょ・・ちょっと慧さん?」
薫君の身体を抱きしめていた。だって可愛くて・・・彼、いえ彼女が。
「ふふふ、可愛い薫君。」
もし私に妹が居て、抱きしめたら・・・こんな感じかしら・・・何だがとても愛おしい。
「い、いくら従姉弟同士だって・・・・」
何を言ってるのかしら・・・貴方の姿は今は・・・・
「良いじゃない、今は従姉妹同士なんだから・・・・」
女の子なんだから・・・・・問題ないじゃない。
「確かにそうかも・・・って・・・いや、そういうことじゃなくって・・・・・」
結局、お父様が来るまで私は薫君をずっと抱きしめていた。


目が覚めたら身体が女の子になっていた。まさかマンガみたいな事が、本当に自分の身に起こるなんて・・・・

進学の為に親戚である『宮内神社』に来たその日の夜。僕は奇妙な光を見た後意識を失った。
やがて目が覚めた僕は、従姉弟である慧さんによって自分の身体の変化を知る羽目になった。
彼女によって自身の胸に手を当てさせられた僕は、そこに今まで無かった感触を感じ・・・・
慌てて胸を見た僕の目に映った光景は・・・・気を失うまでは無かった筈の二つの膨らみ。
そして身体をまさぐって分かった、細くなった腰周り、喪失した股間のもの・・・僕はパニックを起こしてしまった。
そんな僕を慧さんは優しく抱きしめてくれた・・・・のは良いんだけど、幾ら昔から兄弟みたいに接してきたとはいえこれは・・・
はっきり言って恥ずかしかった。しかもそのお陰でお互いの胸が押し付けあう形になり、余計自分の身体が変わった事がはっきり意識させられて。
「い、いくら従姉弟同士だって・・・・」
僕の困惑する言葉に、慧さんはまったく気にしていないように答えてくれる。
「良いじゃない、今はイトコ同士なんだから・・・・」
慧さんの言っているイトコって、”従姉弟”じゃなくて”従姉妹”の方なんだろうな。
彼女って昔から両方の母親のような姉妹に憧れていたって言ってたから。
『薫君が妹だったら嬉しかったのになあ。』
事ある毎に僕に女装させるのって、自分の容姿もあっただろうけど、慧さんの願望も大きかったみたいだから。
でもフリフリの一杯ある服(正式名称は知らない)だけは止めて欲しかったけど(泣)。それで近所の人に妹と紹介されたし・・・
・・・等と現実逃避な事を考えていた僕だった。

暫く経って真一叔父さんが来てようやく僕は解放された。ちなみに叔父さんは、抱き合っている僕達を見て一瞬固まっていたけど。
「状況は聞いたようだね・・・正直言ってこの事は私も慧も非常に困惑させられているんだ。」
気を取り直し、慧さんの隣に腰を下ろした叔父さんはそう話を切り出す。その叔父さんの手には、かなりボロボロになった本がある。
叔父さんはそれを開き僕達に見せる。
「! お父様・・・これは?」
慧さんはその本のあるページに載っていた写真を見ると驚きの声をあげ、それから信じられないという表情で僕を見る。
「わしも驚いているよ・・・お前も似てるが・・・彼は・・・瓜二つだ。」
二人は何にそんなに驚いているんだろう、そう思って僕もその写真を見る。
セピア色に変色した写真に写っているのは一人の少女。髪を腰まで伸ばし、巫女服らしき服を着こんでいる。
誰かに似ている・・・・僕は最初に見た瞬間そう思った。そしてそれが目の前にいる慧さんだと気付く。清楚な所などそっくりだ。
でも、叔父さん、慧さんにも似ているけど、『彼は瓜二つだ。』って言ったよな・・・それって?
「あの・・・叔父さん、その人は?それに彼って・・・もしかして?」
二人の僕を見る表情から、それをおぼろげに察してしまい、意識を失いかける。だって今の僕は女の子に変わっている。
そして改めて見ると僕の髪は、写真の少女同様腰の辺りにまで届くほど長い。これって・・・・
「そう・・今の貴方の姿は、その写真に写っている子と似ている・・・いえ似ているどころじゃないわ、生き写しよ。」
「そ、そんな馬鹿な・・・・」 
あまりの衝撃に僕は固まってしまう。それを見た慧さんは立ち上がると、机の上に置いてあった鏡を持ってくる。
「薫君・・・気持ちは分かるけどこれを見て。」
僕に鏡を渡し、見るように促す。だが、見ることが出来ない・・・心の底から湧き上がってくる恐怖心で・・・・
「大丈夫よ・・・私が付いているから・・・・」
慧さんは僕の肩を抱くと、優しく言ってくれる。その言葉に押され、恐る恐る顔を上げ鏡を覗き込む僕。
「・・・・・・!?」
そこに映し出されているのは、引きつった表情を浮かべてはいるが、写真の少女とそっくりな顔。
「・・・これが僕?」
「そう・・・・今の君の姿はこの写真に写っている『神北綾』、彼女そのものなんだ。」
衝撃に打ち震える僕は叔父さんの言葉を遥か遠くに聞いていた。

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