巫女遊撃隊

第三部NO.03


〜慧視点モード〜

窮屈な会議を終え、自宅に帰宅した私を、従妹である綾ちゃんが迎えてくれた。
まだ千早(ちはや)を着ていたので、ついさっきまで神楽の練習をしていたのかと思ったのだけど。
「・・・・中学時代の友人が訪ねてきて・・・・」
綾ちゃんから事情を聞いた私はため息を付いて言う。
「・・・・それは・・・・厄介な事になったわね。」
どうやら厄介事は重なるらしい・・・・それも起きて欲しくない時に限って・・・・嫌になるくらいピンポイントに。

私は綾ちゃんと共に居間に行き、綾ちゃんの、というかこの場合薫君のだが、友人を紹介された。
メガネを掛けた三つ編みの大人しそうな女の子だった。人見知りをするのか、私を見て緊張した表情を浮かべている。
「『神北慧』です、はじめまして宮村さん。」
「『宮村美智子』です、こちらこそはじめまして神北さん。」
一通りの自己紹介を終えると、私と宮村さんは座り、綾ちゃんはお茶を入れる為にキッチンに向かった。
「それにしても薫君に会うためにいらしたのに、彼が居なくて申し訳ありませんでしたね。」
まあ本当は貴女の目の前にいるのだけど。まさか綾ちゃんが薫君本人だとは思いもしないでしょうね。
「いえ・・・連絡もせず急に押しかけた私が悪いんですからお気になさらずに。」
宮村さんは両手を横に振りながら答える。その間に綾ちゃんは私にお茶をだし、宮村さんのを入れ直すと、隣に座る。
申し訳なさそうに言う宮村さんにほほえましい感じを抱く。外見どおり素直な子のようだった。
私は隣の綾ちゃんを見る。綾ちゃんは私の視線を受けると肯いてくる。一応例の『双子』の設定は通してあるようなので問題は無いみたいだけど・・・・
本来ならここで宮村さんに引き取ってもらうのが良策なのだけど、実はそうもいきそうもない。 
「そう言っていただけると助かります・・・ところで宮村さんはここには桜木線で来られたのですよね。」
私の質問に宮村さんと綾ちゃんが戸惑った表情を浮かべる。まあ急にこんな事を聞かれればそうだろうけど。
「・・・・実は私はさっきまで役所の方にいて聞いたのですが、桜木線で大規模なトラブルが発生して全線運休しているんです。」
「「え!!」」
私の言葉に綾ちゃんと宮村さんが驚きの声を上げる。そんな二人を見ながら私は先ほど聞いたニュースを思いだす。

会議が終わり、部屋を出た私達は酷く騒がしい役所内の姿を見た。顔を見合す私達に気付いたのか、助役の人が来て事情を説明する。
「桜木線の管理システムに大規模なトラブルが発生し、運行が完全に停止しています。」
どうやらコンピューターが突然ダウンしたらしいのだが、原因が不明らしく復旧の見通しが立たないらしいのだ。
これは最悪な事態だった。桜木市にとって重要な外部との交通が遮断されたのだから。
もちろん道路があるので完全に遮断されたわけではないが、通勤・通学や観光などの人的移動は鉄道が主力なのだ。
車両での移動は桜木市を囲む剣呑な山々のせいで、あまり盛んでないのだ。第一、隣町に行くのに鉄道の倍は時間が掛かる。
役所は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。それはそうだ、帰宅できない人々が街に溢れる事になるのだから。
私はそんな騒ぎの役所を早々と退散した。こうなっては巫女に出来ることなど何もないのだから。

「宮村さんは桜木に宿泊されるおつもりではなかったのでしょう?」
「は・・・い。今日中に帰るつもりでした。」
彼女の答えを聞いて、私は考え込む。どこか泊まれる所を紹介すべきなのだろうけど、現状では難しい。
それでなくても市内では帰れなくなった人達を収容する為、どこもかしこも一杯な状況になっているだろうし。
隣で話を聞いている綾ちゃんも心配そうな顔で話を聞いている。彼女にしても友人(偽設定では『兄の』になるが)の事だから。
「よければ家に泊まっていきませんか?まあ古いので快適とはいきませんけど。」
私の提案に宮村さんと綾ちゃんは驚いた表情を浮かべる。
「・・・でもご迷惑では?」
綾ちゃんと私を見て宮村さんが遠慮がちに聞いてくる。彼女も友人の親戚の家に泊めてもらうというのも気が引けるらしい。
「薫君の友人を無下には出来ませんよ。
第一、年頃の女の子を、知り合いの居ないと知っていて放り出せるわけにもいきませんし。」
「慧さん・・・・」
私の言葉に綾ちゃんはほっとした表情を浮かべ、感謝を込めた視線を送ってくる。
「あの・・・ありがとうございます。」
目に涙を溜めて宮村さんがお礼を言ってくる。どうやら彼女も不安だったのだろう、安堵の表情を浮かべている。
「気にしなくてもいいですよ。困った方をお救いするのも神社の勤めですから。」
私はそう言って立ち上がる。
「それじゃ申し訳ありませんけど暫くお待ちになって下さい・・・・綾ちゃんも着替えてきなさい。」
そう言われた綾ちゃんは未だに巫女服姿だった事に気付いて慌てて立ち上がる。
「は、はい。え・・と、宮村さんちょっと待っててもらえますか、直ぐ着替えてきますから。」
「はい、私の事はお気になさらないで下さい。」
微笑みながら答える宮村さん。私達は軽く会釈すると居間を出る。
「とはいえ気をつけないとね・・・・綾ちゃん。」
家の2階に向かいながら私は綾ちゃんに注意を促しておく。
「何が元で貴方の事がばれてしまうか判らないのだから・・・・」
「はい気をつけます。」
気を引き締めるように力強く返事をする綾ちゃん。自分の秘密が関わっているだけに彼女も真剣だ。
2階に上がると、私は客間の準備に、綾ちゃんは自分の部屋で着替える為に、それぞれ向かう。
さて・・・今夜一晩何事も無く終わってくれればいいのだけど。私は深いため息を付く。

外は日が完全に暮れ、闇に包まれつつあった。

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