〜美智子視点モード〜

中学時代の友人を訪ねて桜木にやって来た私は、思わぬ事からその友人が下宿する予定だった親戚の家に泊まる事になった。
彼の双子の妹さんだという巫女の少女と一つ屋根の下で････　

「それじゃこちらをお使い下さいね。」
私が案内されたのは、古めかしいが落ち着いた雰囲気のある、畳張りの和室だった。
家具と言えば小さなタンスぐらいしかないその部屋に、荷物と呼べるほどでもない私の荷物を置いても、まだまだ余裕がある。
荷物を適当な所に置いた私は、ここまで案内してくれた彼女･･･神城綾さんをそれとなく見る。
既に巫女服でなく、白のスラックスとシャツ姿で、結い上げていた髪を下ろした綾さんは最初に見た時の程の神々しさは無かった。
それでも神秘的な碧の瞳と細いウエスト、シャツの上からでも判る大きくはないけど形の良い胸、と私など足元も及ばない美人だった。
だけど････私はどうしても彼女とあの神城薫君が重なって見えてしまう。確かに双子だからと言えばその通りなのかもしれないけど。
神城薫君は元々女性的な容姿の男の子で、女生徒の皆は彼が髪を伸ばし、女の子の格好をしたら似合うと言ってたものだ。
今私の前にいる女の子は、皆の言っていた、髪を伸ばして女の子の格好をした神城薫君そのものだ。
「後でパジャマを持ってきますから、先にお風呂に入ってください･･･宮村さん？」
考え込んでいた私は彼女の言葉に我に返る。
「あ、御免なさい神城さん。」
何を考えているんだろう、彼女が神城薫君のはずは無いのに････ちょっとした自己嫌悪に陥る私だった。
「･･･仕方ないですよね、急にこんな事になっちゃったし。」
綾さんはそう言って笑う。こうして見ると彼女も私と同世代の女の子だと判り、ちょっとほっとする。
初めて彼女を見た時の神々しい姿のせいで少々近寄りがたい印象だったのだ。
「それじゃ少しお待ちくださいね。」
彼女はそう言って部屋を出てゆく。･･･それにしても歩く姿もしゃんとしていて、思わずため息が出る。
こういうところは、舞をしていた彼女を思い出させられる。巫女さんって皆そうなのだろうか？
私は荷物の傍に座ると、中からノートを取り出す。表紙には『３−２　卒業生住所録』。
卒業時に友達の進学先と連絡先を書いてもらったノートだった。私は最後の方のページを開く。
そこにはたった一人の名前と連絡先、そして写真が挟んである。私はそれを手にして見つめる。
恥ずかしそうにそっぽを向いた神城君と、真っ赤になっている私。卒業式の時に友人に撮ってもらったものだった。
実は３年間同じクラスでいたのに、彼の写真は一枚も持っていなかった。それだけにこれは私にとっては宝物だった。
写真を見ながら当時の事を思い出して懐かしさに浸っていた私は、唐突に彼の癖を思い出して、ショックを受ける。
彼は笑うとき首を傾げ、目を細める････さっき綾さんが笑った時、同じ仕草を彼女はしたのだ。
もちろん二人は兄妹だから似ることは有るかも知れない、でもあんなに似るものだろうか？まるで同一人物のように････

トントン･･･

襖が叩かれ、私は我に返る。考え込んでいたのは数分だったみたいだ。
「宮村さん、よろしいでしょうか？」
「は、はいどうぞ。」
慌てて答える。襖が開いて綾さんが入ってきた。手に服を持っている。
私は先程の疑念から、思わず彼女を見つめてしまう。
「着替えです、古着で申し訳ないのですが････？」
見つめられた綾さんは、困惑したのか思わず、片手で頭の後ろを掻く仕草をする・・・
まただ、彼もかつて同じ仕草を私の前でした事がある。
「あ、あの宮村さんどうかしましたか？」
話しかけてくる綾さんを前に私は深い疑念が湧いてくるのを抑えられなかった
彼女は本当に”彼の妹さん”なのだろうか････？　
「あ、あの御免なさい。少しぼんやりしてしまって。」
私は自分が抱いた疑念を慌てて打ち消す。まだ結論は出せない、もっと確信を得ないと。
「そうですか･･･ああ、お風呂にご案内しますからこちらへどうぞ。」
まだ困惑気味だったが、綾さんはそう言って私と部屋を出て、階段を下りると１階に向かう。
その途中で声を掛けられる。声を掛けてきたのは神城君と綾さんの従姉の『神北慧』さんだった。　
「綾ちゃん、ちょうどよかったわ。明日の神楽舞の奉納は明後日に延期されたから。」
「･･･まあしょうがないですね。列車が止まっちゃったんですから。」
神楽舞？先程綾さんが舞っていたものだと思うのだけど･･･
「あ、ごめんなさい。実は明日私と綾ちゃんが、神前で神楽舞の奉納を行う予定だったの。」
私にそう言って説明してくれる『神北慧』さん。
彼女の話だと、明日この神社で大きな神事（祭り？）が執り行われる予定だったらしい。
それが私が足止めを食らってしまったのと同じトラブルで延期さざるをえなくなったみたいだ。
「それから･･･悪いんだけど綾ちゃん、宮村さんと一緒に風呂に入ってくれるかしら？」
「え･･･？」
「宮村さんもお願いできるかしら？」
その言葉に綾さんが固まり、私も最初は困惑した。いくら同性でも一緒のお風呂に入るのはやはり抵抗があった。
色々気になるものなのだ女の子同士は。でも、私は綾さんの事をよく知る為には、これはチャンスだと思った。
「はい、いいですよ私は。」
私は恥ずかしさを堪えながら、そう答えていた。