僕はウェイトレス？�T

僕の名前は、木村夏樹、ひょんなことから「ブルーウィンド」でウェイトレスをすることになってしまった。

アルバイト３日目は、４時からの勤務だったので、昼食を食べた後リビングで、ブラジャーを前に考えていた。
（今日からこれをつけていかなければならないのか、ハ〜）
キッチンから顔を出した母が、僕を見て、
「ちゃんと下も女性用を穿かなきゃだめよ！セットで買ったんでしょ、後、替えの下着も持っていきなさいよ！」
僕は、テーブルに突っ伏した。

自分に出来ることがあればやるというのが僕の信条なので、ブラとショーツを身に着け、「ブルーウィンド」へ出かけた。
少し早めに店に着き更衣室に入ると誰もいなかった。ホッ、として着替えていると、クリスさんと恵理香さんが入ってきた。
「ちゃんとブラしてきたね。ヨシヨシ！」
クリスさんはそういって僕を気にせずに着替え始めた。

着替えが終わってお互いに服装のチェックをしたときに、
「リップくらいつけたほうがよいですわよ。このリップ使ってください。」
恵理香さんが僕の唇にピンク色のリップを塗り、塗り終えたリップを僕の手に置いた。
「私もナツキにリップをあげるわ、この色は昼間使うのにいい色よ。」
クリスさんも僕の手にオレンジ色のリップを置いた。

事務室に行くと雅美さんのほかに男性が一人いた。
「きのうは大変だったそうだが、今日もがんばってください。」
そう挨拶すると、クリスさんと恵理香さんが頭を下げたので、僕もあわてて頭を下げた。
「君が新しいアルバイトだね、いきなり大変だったみたいだけど、これからもよろしく、私が、店長の山本です。」
店長が僕に挨拶しているあいだに、クリスさんと恵理香さんは、お店に出て行った。
「ナツキちゃん、いい色のリップね、私からもプレゼントよ。日が暮れてから使うといい色よ。」
雅美さんが、ローズピンクのリップを僕に渡した。
お店に行こうとすると、店長が、
「ちょっと写真を撮るから、ドアのところに立ってくれる？」
デジカメで写真をとると、
「がんばって」と言って送り出された。

来店者の少ないうちにレジの打ち方や、注文のＰＯＳへの入力のしかたを教わった。
６時過ぎから大分混みはじめた店内に一人の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ。・・・」
入ってきたのは僕の母だった。
「ようこそブルーウィンドへ、お一人様ですか？」
心の中で（何で来るんだよ！〜）と叫びながらそういうと、
「よく似合っているわよ、もう一人来るけど、時間がかかりそうだから、先に案内してくれる？」
誰が来るのだろうと思いながら、席に案内した。２分位して入って来た人を見て僕は心の中で叫んでいた。
（母さんのバカヤロ〜！何で洋子姉さんと来るんだよ〜！）
「いらっしゃいませ。ようこそブルーウィンドへ」
僕を頭のてっぺんからつま先までじっくり見て
「よく似合っているわよ。」と一言だけ言い母のところへ歩いていった。
二人は特に変わったこともせず食事をして帰っていった。

仕事を終えて家に帰ると疲れて泥のように眠り込んでしまった。

翌朝目を覚まし顔を洗って鏡を見ると、何か違和感があった。よーく見ると眉毛が、女性のようにきれいな弓形に整えられていた。
「母さん、なんてことをしてくれたんだよ、これじゃ街なかを歩けないじゃないか！」
僕が母に文句を言うと、
「洋子さんときのうお店に行ったときに、睫毛だけがおかしかったから直しといたのよ、いけなかったかしら？」
何事もなかったかのように言い放つ母だった。

お店にむかうバスの中、僕はたくさんの視線を感じていた。それは、嫉妬とも羨望とも感じ取れるものだった。
きのうも少しは視線を感じたが、今日ほど強くは感じていなかったのだが・・・。

女子更衣室のドアをノックすると細めにドアが開き裕香さんが顔を出した、
「入ってもいいですか？」
「ええ、どうぞ入って着替えてください。」
裕香さんはそう答え嬉しそうにドアを開けた。
「私のせいで、ウェイトレスをさせることになってしまってごめんなさい。できるだけ協力しますのでがんばってください。」
裕香さんはそういい涙ぐんだ目で僕を見つめた。
「気にしないでください、まあ、女装は少しさせられたことがありますから。」
僕はそういって裕香さんを慰めた。
「このヘアピン使ってください。少しは、女の子らしく見えますから。」
そういって髪にヘアピンを刺してくれた。
（裕香さん、できるだけ協力するって言うのは、女の子らしくするのを手伝うっていうことですか？）
思わず心の中で突っ込みを入れる僕だった。

今日の早番のウェイトレスのメンバーは、僕と裕香さん、クリスさんと恵理香さんだった。
おとついは１時半になるとお客さんはほとんどいなくなったのにきょうは、３時半までほとんどいっぱいだった。
「今日はお客さんが途切れないですわね？」
「それに女の子が多いよね、なぜだろう？」
恵理香さんとクリスさんが話しているのを聞きながら、僕もなぜだろうと考えたが結局はわからなかった。
そんな時お客の女子高校生たちから、
「ナツキさん、いい色のリップつけてますね、どこのメーカーの何番のカラーなんですか？」
と聞かれわからないので、
「もらい物だから、よくわからないんだけど、これだよ。」
ポケットにあった３色のリップをテーブルの上に並べると、女の子たちは一生懸命、メーカーとカラーコードをメモしていた。

勤務時間を終え更衣室に戻ると
「ナツキちゃん、すごくかわいかったよ。これからアクセサリー買いに行かない？」
裕香さんが僕に言ってきた
「僕は男なんですけど・・・」
僕の言葉は、クリスさんと恵理香さんの
「一緒に行きましょう」
「ナツキはかわいいわよね」
と言う言葉にかき消され、デパートのアクセサリー売り場に３人に引きずられていかれた。
（どうもウェイトレス姿を見た人は、僕が男ということを忘れていくみたいだな〜）
その想いは、すぐに肯定されることになった。

自宅に帰り自分の部屋に入るとあまりに様子が変わっているのに驚いた。カーテンは淡いピンク地に白い花があしらわれており、ベッドカバーもピンク色地にキャラクターが描かれたものに なっていた。
さらにドレッサーが入っており、化粧品が並んでいた。
「母さん、僕の部屋をどうしたんだよ！」
１階に降りて母に文句を言うと、
「前から女の子がほしかったから、あなたに似合うように変えといてあげたの。いけなかった？」
「僕は男だ〜！」
僕が叫ぶのを何事もないように見ていた母は、
「もう少し女の子らしくしなさい。」
とたしなめ、キッチンに入っていった。
汗を掻いたので風呂に入ろうと下着を取りに部屋に戻り、たんすを開けると色とりどりの女性用下着が、目に入った。
こんなにたくさんの下着は買った覚えはないし、男性用の下着がまったくなかった。ほかの引き出しを開けると女性用の衣類しか入っていなかった。
１階に降りて母に尋ねた。
「家に女の子っていたっけ？、僕の下着もないんだけど。」
「あれは、全部あなたの下着よ、古いのは全部処分したわよ。女の子らしくするんでしょ？、しばらくはあれで我慢しなさい。隣の洋子ちゃんから大分もらったから、お礼を言っておきなさ い。」
「僕は男だ〜！」
僕の叫び声だけがむなしく響いていった。