僕はウェイトレス？�T

僕の名前は、木村夏樹。ひょんなことから「ブルーウィンド」でウェイトレスをすることになってしまった。

アルバイトを始めてはや１０日、僕の周りはすごい勢いで変化している。
一番大きな変化は、母が僕を女の子として扱いはじめた事、家には男物の洋服や下着が１枚もなくなった。
同僚のウェイトレスも僕を女の子としか見ていない。
一日中女の子の格好をしているせいか、女装に違和感を感じなくなってきた。
お店には、女の子がたくさん来るようになり、いつでも満員だ。
「付き合ってください。」
男たちからは、告白されるし、（僕は男だ！もちろん断る。）
「私のお姉さまになってください。」
女の子からは、打ち明けられるし（かわいい女の子と、男として付き合いたい。）大変な日々には違いない。

今日は７月３１日、早番で出勤した僕たちの仕事もあと３０分で終わる。今日も朝からお客さんが押し寄せ、休むまもなくこの時間になっていた。
「きのうはお客さんが少なかったのに今日は多かったですわね。」
「きのうは楽だったのに。」
恵理香さんとクリスさんの話を聞いて、きのう休みだった僕は思わず聞いた、
「えっ、きのうはお客さん少なかったのですか？」
「ええ、はじめは多かったのですが、途中からは少なかったですわよ！
　ナツキちゃんはどうしたかと、よく聞かれましたわよ。もしかして今月の人気投票、ナツキちゃんが１番かもしれませんわよ？」
恵理香さんの言葉に僕は思わず聞き返した
「何ですか人気投票って？」
「ああ、ナツキは初めてだったね、店長がここの店のホームページを作っていて、ウェイトレスの人気投票をしているんだよ、１番になった人はその月の時給を５０円アップしてもらえるんだ！」
「ここしばらくは、クリスさんが１番でしたけど、今回はわかりませんよ？」
「今月も私が１番だよ」
クリスさんは自身ありそうに言った。

遅番の組と交代して事務室に入っていくと正面に今月の人気ランキングと書かれた紙が張り出してあった。
１位　ナツキ　183票
2位　クリス　　92票
3位　恵理香　　86票
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「やっぱりナツキちゃんが１番だったわね。」
「ナツキ、明日の昼は、私たちにおごるのよ。今まで1番の人の伝統だからね！」
恵理香さんとクリスさんは、僕を祝福し言葉をかけた、
「BBSに苦情などは、書き込みされていませんでしたが、ナツキちゃんの口紅の色で盛り上がっているので、投票コーナーを作りたいと思いますので協力してください。」
店長はそういいデジカメで、僕の顔のアップを撮った。
「あなたたちのグループは、もうひとつのグループの1.5倍も人が入っているし、売り上げも1.5倍あるから人数を増やしたほうがいいと思って、新しい人を入れることにしたの。本店から研修にきた、渡辺隆くんと、服部真由美さんよ。明日から一緒にがんばってください。」
雅美さんが二人を紹介した。男性は大学を卒業して入社1年目の軽い感じの男で、女性は中学生にしか見えなかった。
「渡辺です。今年はいったばかりで、実務も初めてです。よろしく！」
「服部真由美です、真由美と呼んでください。あこがれのナツキさんと同勤できてうれしいです。」
「グループのリーダーをしているクリスです。メンバーは右から、恵理香、裕香、そしてナツキです。忙しいけれども仲良くやりましょう。」
二人が自己紹介すると、クリスさんが代表して挨拶した。
「あさっての朝10時からテレビ局の取材があるから、よろしくね。」
「なんて番組の取材なんですか？」
クリスさんが興味深げに聞くと、
「○○TVの、『街の美少女』よ。クリスと渡辺君は留守番よろしくね」
「え〜、私の取材じゃないの？」
『街の美少女』は30秒ほどの短い番組だけれど、男子高校生の7割が見ているという人気番組だった。もちろん僕も見ていた。
「クリスさん、僕が代わりに留守番しましょうか？」
みんなに見られたくない僕がそう言うと、
「あなたを取材に来るの！お店の宣伝をしっかりしてね。」
（僕は男なのに『街の美少女』に出るなんて〜）
雅美さんは僕の助けを求めるまなざしを、まったく気にせずに言い放った。



「あの〜、先輩方もしよかったら、きょう、家に遊びに来ていただけませんか？両親が、私がどんなところで働いているか心配しているのです。もちろん夕食も用意しますので。」
「う〜ん、今日は友達と約束があるからまたね。」
「私も用事がありますわ。」
「私は、門限が・・・。」
他の3人が断ったので僕も断ろうと彼女を見ると、目を潤ませ、すがり付くように僕を見ていたのでやむなく、
「特に予定はないし行ってもいいけど、僕一人でもいいの？」
彼女は僕に抱きつき、
「ありがとうございます。ナツキさんなら大歓迎です。」
彼女にそう言われ、彼女の家に行くことになってしまった。

彼女の家に行く道すがら、いろいろ話しながら歩いていった。
「あの〜、ナツキさんは、どこの学校に行っているのですか？みんな知りたがっているのですけど〜。」
「う〜ん、ちょっとわけがあって言えないんだ。」
（学校の名前がわかれば、僕が男とわかってしまうから・・）
「あの〜、気にしてたらごめんなさい。さっき抱きついたときに感じたんですけど、ナツキさんって胸小さいんですか？」
「アハハハ・・、別に気にしてないから。」
もちろん僕は男だから胸が大きくなるはずもない。
店から歩くこと十数分
「さあ、つきました、ここが私の家です。」
案内された家は大きな病院に隣接して建つ家だった。
「ただいま〜、ママ〜、アルバイト先の先輩が来てくれたよ〜。」
奥から彼女の母親と思しき女性が、白衣を着て出てきた。
「遠いところをようこそいらっしゃいました。真由美の母です。どうぞ遠慮せずに遊んでいってください。」
僕は応接室に案内された。
「私ちょっと着替えてきます。そういえば先輩、ブルーウィンドのHP見たことありますか？」
僕はパソコンを持っていなかったので、ブルーウィンドのHPなど見たことはなかった。
「見たことないけど、見れるの？」
「じゃあパソコン持ってきますね〜。」
そう言って彼女は部屋を出て行った。
「ママ、先輩は気にしないって言ってたけど、胸が小さくてカワイソ〜なの、何とかできないかな〜？」
「え〜、あんなにかわいいのに胸が小さいの？それはかわいそうね。う〜ん、何とかしてあげようね。」
奥でそういう会話がされていたのは僕の知らないことだった。

「お待たせしました。家ではワイヤレスLANを使っているのでここでHPが見れるんですよ〜。」
彼女がノートパソコンを持って入ってきた。
「ブルーウィンドのHPを開きますね〜。あっ！更新されている。ナツキさんの部屋が作られてますね〜。」
ナツキの部屋をクリックすると『どの口紅がお好き？』『プロフィール』『BBS』のコーナーが表示された。
『どの口紅がお好き？』をクリックすると帰り際に撮られた写真が3枚並べられ、『あなたのお好きな写真をクリックしてください。』と書かれていた。
「やっぱりナツキさんには、オレンジのリップが似合いますよね〜。みんなナツキさんのまねをしてオレンジのリップを使ってみたんですけど、あまり似合う人はいなかったんですよ〜。オレンジのリップはナツキさんのために作られたものと思えるくらいよく似合ってますよ〜。」
オレンジのリップを付けた写真をクリックすると『得票数215』と表示された。
「えっ！この写真さっき写したばかりだよね？写してからまだ30分くらいしかたってないのにすごい数だね！」
僕が驚いて声を上げると、
「普通、ホームページを開設しても1000Hitまで1ヶ月以上かかりますよ〜、ナツキさんってすごい人気ですね〜。」
僕は背筋に冷たいものを感じた。
『プロフィール』をクリックすると『名前、木村ナツキ』以外は、『現在調査中』と表示されていた。「ほっ」、としていると、
「ほんとにナツキさんはどこの学校に通っているんですか〜？今、この近隣の女子中学生の興味の的なんですよ〜。」
「う〜ん、僕なんか気にしなくていいのに。」
（気にして欲しくないんだけどな。）
「でも、好きな人とか憧れの人と同じ学校に行きたいと思いますよね〜？女子高生の中には転校まで考えている人もいるらしいですよ〜。」
あまりのことに頭が痛くなってきた。
（店長には、学校名とか、年齢とか載せないように頼まないといけないな。）
『BBS』をクリックすると、圧倒的に多かったのが、「私のお姉さまになってください。」で「ナツキさん好きです。彼女になってください。」「ナツキさん、どこの学校ですか？ぜひ教えてください。」なども所々に書かれていた。
「それにしても、こんなに書き込みがあるなんて、ナツキさんの人気はすごいですね〜。」
彼女は感心してうなった。

「食事の用意ができましたよ。こちらへどうぞ。」
彼女の母親が入ってきて僕たちを食堂に案内した。
「簡単なものしかありませんが、たくさん食べてくださいね。」
「はじめまして、木村夏樹です。」
「あらあら、自己紹介してなかったわね、真由美の母親の洋子です。ここの病院で、薬剤師をしています。真由美ちゃんから、素敵な先輩がいるって聞いていたけどあなたみたいね、これからも真由美をよろしくね。」
洋子さんの作ってくれた料理はどれもおいしかった。

会食がすみ、帰る間際に
「ビタミン剤よ、1日1回飲んでね。」
薬袋を洋子さんから渡された。