僕はウェイトレス？�T

僕の名前は、木村夏樹。ひょんなことから、ファミリーレストラン「ブルーウィンド」でウェイトレスをすることになってしまった。

給料日の翌日、ウェイトレスの人気投票で1位になった人が、食事をおごることになっていたので、駅前に11時30分に集合した。
「どこに行きますか？」
「今日はナツキちゃんの好きなものにしましょう。」
「じゃあ、パスタなんかどうですか？」
『OK !』
全員の意見がまとまり、イタリア料理屋に向かって歩き出した。
しばらく歩いていると、正面から歩いてきた、どこか見たことのある女性が声をかけてきた。
「クリスさん、恵理香さんお久しぶりですね。」
「由紀子！　久しぶりね！　元気にしてた？」
「三枝さん、お久しぶりですね。今日はどこに行かれるのですか？」
声をかけてきたのは、美術部の先輩で、ブルーウィンドを紹介してくれた、三枝先輩だった。
「今から夏期講習へ行くところよ。みんなそろって今日は、例の食事会？
今回も1番はクリスさん？」
「いいえ、今回のNo1は先月から入った、ナツキちゃんです。三枝さん彼女は初めてですよね？」
隣にいた恵理香さんが、僕の両肩に手を置き三枝先輩に僕を紹介した。
「夏樹君、ウェイトレスのNo1って？
確かにウェイトレス姿がよく似合うと思うけど。」
彼女は僕を頭の上から、つま先までじっと見て言った。
今の僕の服装は、ブラはしているが、上は女性用のワークシャツ、下は女性用のスラックスを穿いていた。（男性用の洋服は、すべて捨てられたため（涙））
「ナツキちゃんは、女の子にすごい人気があるんですよ。そういえば、明日の朝、10時からテレビの取材が来るそうです。三枝さんも見に来ませんか？」
「ええ、明日は夏期講習も休みなので、行かせてもらうわ。」
三枝さんは時間がないといって歩いていってしまった。

食事のあと、男物の洋服を買おうとデパートに行こうとすると、クリスさんと恵理香さんがついてきて、僕はブラウスを買わせられてしまった。

翌日、テレビの録画は、僕、真由美ちゃん、恵理香さん、裕香さんの順番で、ブルーウィンドの制服を着て録画されることになった。
「いらっしゃいませ、ブルーウィンドへようこそ。
ブルーウィンドでアルバイトをしているナツキです。
お店で皆さんをお待ちしています。」
雅美さんに、お店の宣伝をするように、言われたのを思い出して、自己紹介をした。
「いらっしゃいませ、ブルーウィンドへようこそ。
ブルーウィンドでアルバイトをしている真由美です。
ナツキさんだーい好き！」
真由美ちゃんは、そばで見ていた僕に抱きついてきた。
さすがにそれはまずいと雅美さんが言ったので、撮り直して、
「いらっしゃいませ、ブルーウィンドへようこそ。
ブルーウィンドでアルバイトをしている真由美です。
素敵な人がお店にいます。みんな来てね！」
と愛想を振りまいた。
恵理香さんと裕香さんは、無難に挨拶していた。

（何で夏樹君がウェイトレスをしているのだろう？）
由紀子は「ブルーウィンド」に行けば、訳が分かると思い、店の前に来ていた。
テレビの録画のために出てきたナツキを見た途端、由紀子は確信した。
（夏樹君は女性だったんだ！）
ナツキは、きのうと違い制服に身を包み、髪にカチューシャをつけ、
くちびるにオレンジ色のリップをつけていた。
ナツキの録画が終わり、ほかの人の録画を見ていたが、クリスに呼ばれ、店に入っていくと、ほかの人の撮影は続いているのに、録画を見ていた大勢の女子高生たちが、店に入っていった。
（確かに夏樹ちゃんは、人気あるわね！）
変に納得する由紀子だった。
録画が終わったところで雅美が話しかけてきた。
「久しぶりね由紀子さん、あなたにいい人を紹介してもらってよかったわ。」
「ナツキちゃんのことで聞きたいことがあるんですけど？」
「じゃあ事務室で話しましょう。」
お店の事務室で雅美さんにお茶を出してもらい話し始めた。
「ナツキちゃんが来てから、お店の売り上げ5割増よ。
本当にいい人を紹介してもらったわ。」
「そのナツキちゃんなんですけど、学校では男装しているんですよ。
いったいどうやってウェイトレスの制服を着せたんですか？」
雅美はいきさつを由紀子に説明し、
「8月いっぱいまでの約束だけど、あなたみたいに、ずっと来てもらえるといいんだけど、何か良い方法ないかしら？」
「そうですね〜、私みたいに学校帰りにアルバイトに来るには、女子の制服着てないとおかしいですね。私の予備の制服をあげるわ。
あと、クリスさんや恵理香さんの協力があれば、何とかなるんじゃないかしら。
二人に協力してもらえるように話しといてくださいね。
私は制服を持ってあとで来ます。」

何かの入った紙袋を持った三枝先輩が、お店に入ってきたのはきょうの勤務があと30分で終わるという時間だった。
「いらっしゃいませ、ブルーウィンドへようこそ。お一人様ですか？」
「ええ、ひとりよ。それにしてもよく似合っているわね、ナツキちゃん。
渡したいものがあるから、あとで事務室に行くわね。」
勤務時間が終わり、事務室によっていくと、なぜかクリスさんと恵理香さんもついてきた。
「何か用ですか？」
「ええ、ちょっと。」
恵理香さんが答えたが、何か不思議な雰囲気だった。
三枝先輩が入ってきたので、
「三枝先輩、何ですか？僕に渡すものって？」
「ナツキちゃんは、学校では男子の制服を着ているでしょ、
新学期が始まっても、ここに通えるようにうちの学校の女子の制服を持ってきてあげたわ。」
「え〜！　僕は男ですよ！　しかもアルバイトは8月いっぱいなんですよ！。」
「ナツキちゃん、すごく人気があるからできれば9月からも来てほしいの。」
雅美さんがすまなさそうに言った。
「ナツキ、勝ち逃げは許さないわよ！」
クリスさんが僕の肩をつかんで怖い顔をしていってきた。
「ナツキちゃん、もし8月でアルバイトをやめたら、ナツキちゃんが男の子だったということがみんなに知れ渡るわよ。」
三枝先輩が僕を脅かす。包囲網は完璧だった。
「わかりました。9月からもアルバイトをさせていただきます。」
僕はうなだれて答えた。
「それじゃあ、この制服着てみてよ。私の予備の制服だけど、背格好が似ているからサイズは合うと思うけど・・。」
「じゃあナツキちゃん、着替えに行きましょう。」
恵理香さんが三枝先輩から袋を受け取り、僕を女子更衣室に引っ張っていった。
僕は、女子の制服に着替えさせられ事務室に連れて行かれた。
「すご〜い、よく似合っている。完璧よ！」
三枝先輩のお褒めの言葉も、男の僕にはうれしくなかった。
僕が女子高生の姿をしていると聞いて、店長がデジカメを持って、飛んできて、制服姿をカメラに収めた。
「店長、僕、どこの高校か知られたくないので、ホームページには載せないでくださいね。」
店長は残念そうにうなずいた。
高校の制服から私服に着替え、自宅に帰るとまたしても母に制服を発見されてしまい、制服のファッションショウまでさせられてしまった。

僕のウェイトレス姿がテレビに流れたのは、翌週の月曜日だった。
早番だったアルバイトを終え、自分の部屋でテレビを見ていると、僕がテレビの中で微笑んでいた。
自分のウェイトレス姿を見て、よく似合っていて、かわいいと思っていると、自宅の電話が鳴った。
「夏樹、電話だよ！」
1階に降りていき受話器をとると、担任の山本順子先生だった。
「木村君、いいえ、木村さん、どうゆう理由があったのか知らないけれど、女の子はちゃんと女の子のかっこうをしなければだめよ、新学期からは、ちゃんと女子の制服を着てきなさいよ！　いいわね！」
僕の話をまったく聞かずに電話は切ってしまった。
「何の話だったの？」
「新学期から女子の制服を着て来いだって！　僕は男なのに！」
「よかったじゃないの。きっとよく似合うわよ。」
「僕は男だって言っているでしょう！」
僕の叫びがむなしく響いた。

翌朝いつもどおりに起き、アルバイトが遅番なので、それまで何をしようか考えていると、電話がなった。
「ナツキちゃん、今すぐ出てきてくれないかしら？
お店が大変なことになっているの。」
雅美さんの悲痛な声がした。
「いいですよ。すぐに行きます。」
時計は9時を回ったところだった。
着替えてすぐにバスに乗り、店の前を通ると、行列が50メートルも続いていた。
通用口から、店に入り、女子更衣室に入っていくと、クリスさんと、裕香さんがいた。
『ナツキちゃんおはよう！』
「おはようございます。」
「おもての行列見た？　あれほとんどがナツキちゃん目当てみたいだよ。」
クリスさんが、とんでもないことを言った。
「全部は入りきれないから、かなり待つ人が出そうですわね。」
恵理香さんも心配そうに言った。
とりあえず、制服に着替え事務室に行くと、雅美さんから、シフトについて説明があった。
「ナツキちゃんは、案内とオーダーテイク、ほかの人はフォローしてあげてください。修一君は店長とキッチンに入ってください。」
「あの〜、僕もキッチンに入りたいんですけど。」
ナツキが言うと、
「外に並んでいる人たちは、あなたを見に来ているのよ。
あなたがいなかったら暴動がおきるかもしれないわ。
きょうは、前面に出ていてちょうだい。」
僕は雅美さんの言うことにうなずかざるをえなかった。
真由美ちゃんが遅番として出てきても、来店者が途切れることはなかった。
結局1日中休むまもなく働き続け、家に帰り真由美ちゃんの家でもらったビタミン剤を飲んで寝た。

『街の美少女』では雅美さんがNGを出した、真由美ちゃんの最初のテイクが放送されたそうだ。

翌日（水曜日）は、前日にも増して、"夏樹"さんとは誰か？見に来る客が多くて、早番の僕たちは、閉店までいる羽目になってしまった。家に帰りビタミン剤を飲むと倒れこむように寝てしまった。

木曜日には朝から雨が降っていた。二日続きの早出残業に疲れ、遅番の僕は、昼過ぎまで寝ていた。
疲れが取れないので、もらったビタミン剤を飲むと、気分が悪くなり頭が痛くなったが、雅美さんが言っていた『あなたがいなかったら暴動がおきるかもしれないわ。』の言葉を思い出し、お店に出勤すると気分が悪いのは治ってきた。
早番との交代のときに、軽薄男の本間秀一が
「ナツキちゃんのお友達が、来ているようだよ。あの制服は御崎高校だね。
ナツキちゃんも御崎高校だったんだね。」
確かに店の一角に制服を着た女子高生の一団がいた。
「僕帰る。」
事務室に帰ろうとする僕の襟首をつかんでクリスさんが、
「みんなあなたが目当てで来ているんだから、帰さないわよ！」
そういって僕をにらんだ。
「１２番テーブルのオーダーできました。」
キッチンから声がかかり僕もしぶしぶ配膳に行くことにした。
１２番テーブル・１３番テーブルには女子高生の一団がナツキを待っていた。
「お待たせしました、アイスミルクティーをご注文の方は？」
ドリンクを配ろうと顔を上げると、自分のクラスの女子が全員そろっていた。
「アイスミルクティーは私。」
同じ美術部員の紅林さんが名乗り出た。
「な、何でみんないるの？しかも制服を着て？」
「あ、私、オレンジジュース。
メグが『街の美少女』にナツキが出ているのを見て、みんなで来ようって言う話になったの。」
同じく美術部員の佐藤さんが事情を説明した。
「ナツキも水臭いわね、本当は女の子なのに、
私たちにまでそれを隠して男として学校に通うなんて。
それにしても本当によく似合っているわね、その制服。」
みんないっせいにうなずく。
（別に何も隠してないし、僕は男だよ！）
周りにたくさん人がいるので、反論ができない僕だった。
「みんなに女の子だってばれたんだから、これからは女の子同士仲良くしましょう。」
佐藤さんがそう言うと、みんなが一斉にうなずいた。

周りにいて僕たちの会話を聞いていた人たちから、
「あの娘、御崎高校の生徒だったんだ。」
そう言う言葉が漏れ聞こえてきた。