僕はウェイトレス？�T

僕がウェイトレスを始めて早や２週間、僕を取り巻く人たちは、僕を女の子としてしか認識をしてくれなくなってきているのを感じながら、アルバイトを続ける僕だった。

『街の美少女』事件から僕を見に来る人は、多いながらも、何とか落ち着いた日々を送っていた。

早番の仕事を終え、みんなで女子更衣室で着替えを始めようというとき、
「ねえ、８月１４日設備点検のため臨時休業するって話があるんだけど、聞いてる？」
クリスさんの発言が、更なる僕の不幸の始まりだった。
「雅美さんに聞いてみようか？」
クリスさんはそういって更衣室を出て行き、しばらくして戻ってきた。
「８月１４日の臨時休業は本当だって。みんなでどこか行きたいね。」
「そうですわね。１３日は早番ですし、１５日は遅番になりますから、丸二日ありますね。」
恵理香さんも乗り気だ。
「でも、今からじゃ、宿なんか取れないですよ〜。」
真由美ちゃんがそういうと、今まで黙っていた裕香さんが、
「テニスの同好会で合宿するためにペンションを貸切にしたんだけど、
人数が思ったよりも集まらなくて、２部屋くらいなら空いてますよ。
一人１泊２食で８，０００円ですけど、近所に村営のテニスコートもあるんですよ。」
「それに決まり！」
クリスさんが裕香さんの言葉を途中でひったくり、即断した。
「私、行きま〜す。」
真由美ちゃんが最初に参加を表明し、恵理香さんも、
「私も参加させていただきます。」
と、参加を表明、
「私、免許持っているから、車借りてくるね。」
クリスさんは当然のように、参加を表明した。
「雅美は、点検の立会いがあるから行けないし、裕香は同好会で行くから、
もう一人ほしいわね。テニスするなら４人いないとねえ。」
クリスさんがそういうと４人の視線が僕に集中した。
「僕はテニスウェアー持ってませんし・・。」
「私のを１着貸してあげるわよ。」
裕香さんがダメを押した。
「わかりました。参加させていただきます。」
『やった〜』
まわりから歓声が上がった。
「まあ、アンスコくらいは自分で用意してね。」
「えっ！　アンスコって何ですか?」
「アンスコなら、私の使っていないものを差し上げますわ。」
裕香さんが質問に答える前に、恵理香さんのフォローが入った。
「テニスシューズ履かなければ、ダメですか〜?」
「クレーコートだから、べつにテニスシューズでなくても良い筈ですよ。」
ほかの人の質問に僕はアンスコが何か、聴く機会を失ってしまった。

８月１４日、早番の仕事を終えた僕たち４人はクリスさんの運転する車で、
高原のペンションに向かっていた。
「部屋割りだけど、どうしようか？」
クリスさんの言葉が、これから始まる騒動を予感させることになった。
「私は、ナツキちゃんと同室がいいですわ。」
「私も、ナツキと同室がいいな。」
「もちろん私も、ナツキ先輩と同室がいいで〜す。」
僕は３人の言葉に固まってしまった。
「ナツキは誰と、同室がいいの？」
クリスさんが僕に聞いてきた。
「えっ!、僕は一人部屋なんじゃないんですか？」
「予約は二部屋、ベッドは各部屋２台だから誰かと同室することになるよね。」
クリスさんがさも当然とでも言った表情で僕を見た。
「ナツキちゃんは、私たちといっしょに泊まるのがいやなの？」
恵理香さんが悲しそうに聞いてきた。
「そ、そんなことないですよ！」
僕が恵理香さんの言葉を否定すると、恵理香さんはうれしそうに微笑んだ。
「じゃあ、誰と同室がいいの？」
クリスさんの言葉に、僕は墓穴を掘ったのを悟った。
僕が黙っていたので、じゃんけんで決めることになり、恵理香さんと同室になった。
「ナツキちゃん、よろしくね。」
恵理香さんに言われ、何も言わないのは悪いと思い。
「こちらこそよろしく。」と返事を返してしまった。

道路が混雑していたので、ペンションに到着したのは７時を過ぎたころだった。
ちょうど夕食が始まっていたので、僕たちも席についた。
料理は素朴な感じのするもので、なかなかおいしかった。
「長時間、車での移動お疲れ様でした。
食後に当ペンション自慢の露天風呂にお入りください。」
宿の主人が僕たちに声をかけてきた。
「私たちは、もう済んでますから、ごゆっくり。」
裕香さんも、僕たちに声をかけてきた。
「オー、それは楽しみね。４人いっぺんには入れますか?」
「もちろん入れますよ。」
人のよさそうな主人はうなずいた。

食事が終わり、部屋に戻り恵理香さんと話していると、
クリスさんが、「お風呂に行こう。」と声をかけてきた。
僕がためらっていると、クリスさんが僕を無理やり脱衣所に引きずって行き、
恵理香さんが僕の荷物から着替えを出し、追いかけてきた。
「ま、待ってくださいよ。僕は男なんだから一緒に入るのはまずいでしょう？」
「なに言っているのよ、ナツキが男の訳ないでしょう。」
クリスさんに、男性を否定されて、女子脱衣所に連れ込まれた僕は、
脱ぐのをためらっていると、恵理香さんが僕の服を脱がせにかかった。
「恵理香さんやめてください！自分で脱ぎますから。」
その間にクリスさんは豪快に服を脱ぎ、前も隠さずに風呂場に入っていった。
「ナツキせんぱ〜い、早く入ってきてくださいよ〜、いい湯加減ですよ〜。」
先に入っていたのか真由美ちゃんの声もする。
混浴のお風呂だと思えばいいと、覚悟を決め、服を脱ぎ、最近なぜか膨らんできた胸とナニをタオルで隠して風呂場に入った。
室内でかけ湯をして屋外に出る、タオルで体を隠したまま、湯船に入ったところ、恵理香さんから声がかかった。
「ナツキちゃん、湯舟にタオルを浸けちゃいけないんですわよ。」
恵理香さんがそう言ってタオルを剥ぎ取ってしまった。
「本当にナツキちゃんは恥ずかしがりやさんなんですから。」
（そんなこと言っても、僕は男なんですから、女性との混浴は恥ずかしいですよ。）
心の中で抗議するナツキだった。
「ウ〜ン、やっぱり露天風呂はいいよね、私、露天風呂大好き！」
クリスさんが伸びをしながらこういうと、
「本当に！ただ、女性用の露天風呂って少ないですから、なかなか入れないんですよね。」
「確かに女性用って少ないよね。」
恵理香さんとクリスさんの会話を聞いて、女性用の露天風呂が少ない事実をはじめて知った。
「混浴の露天風呂はたまにあるけど、私のナイスボディをじかに見ていいのは女性と将来の旦那様だけよ。」
「男性に裸を見られるのはいやですものね。」
「のぞき見をするやつを見つけたら、百叩きの刑にしてやる。」
恵理香さんの言葉にクリスさんが答えた。
僕は百叩きにあってはたまらないので、黙って湯に浸かっていた。
「明日の予定はどうなっているのですか〜？」
会話からはずれていた真由美ちゃんが、突然聞いてきた。
「えーと、明日は、朝１時間くらいテニスをして、この近所のプチミュージアムをいくつか見て回り、夕方テニスを２時間くらいする予定かな?」
「あさっては？」
「遅番の仕事があるし、チェックアウトが１１時だから、
朝１,２時間テニスをして、シャワーを浴びてここを出ようか。」
クリスさんによる旅行の計画を聞いていた僕は、そろそろのぼせてきていた。
先に上がるわけには行かないので、
「もうそろそろお湯から上がりませんか？」
みんなに提案するが、その反応は芳しくなかった。
「こんな風にみんなとゆっくりできるのはめったにないから、もう少しこうしていようよ。」
「そうですわ、裸の付き合いってなかなかできませんわよ。」
話しているうちに本当にのぼせてしまった。
そろそろ出ようかという話になったのはそれから２０分後だった。
僕はヘロヘロになってみんなのあとから露天風呂から上がり、脱衣所に駆け込んだ。
そそくさと洋服に着替え、部屋に戻りベッドの上で涼んでいると、恵理香さんが入ってきた。
「ナツキちゃん、どおしたの？きゅうにいなくなって。」
「湯あたりしちゃたから、早く上がってきたんだ。」
「まあ、そうだったんですか！　それならしょうがないですね。
ところで、入浴後の基礎化粧は済まされましたか？」
「えっ！基礎化粧って何ですか？化粧なんかしたことありませんよ。」
僕がそういうと恵理香さんは目をむいて、
僕を鏡の前に引っ張っていき、いすに座らせ、こう言った。
「女の子の肌はデリケートで、手入れをしないとすぐにしみやそばかすなどができてしまいますわ。
だから基礎化粧は欠かさずしなければいけないんですわ。」
そういって顔に化粧水を塗られ、さらに乳液まで塗られた。
「本当は、コールドクリームも塗ったほうがいいんですけど、今日はやめておきましょうね。」
なすがままにされていた僕は、こくこくと首を縦に振るしかなかった。
「さあ、明日のテニス楽しみですね。」
恵理香さんの言葉に絶望感を感じる僕だった。