僕はウェイトレス？Ⅰ

「・・っきちゃん、なつきちゃんおきて。」
「あふ、恵理香さんおはようございます。」
旅行二日目、恵理香さんに起こされた僕は時計を見ると、まだ６時半だった、
「恵理香さん、まだ６時半じゃないですか？もう少し寝かせてください。」
「ナツキちゃんはお寝坊さんですね、女の子はいろいろやらなければならないことがあるでしょ？
そろそろ起きてください。」
女の子ではないが、確かにする事はあるので起きることにした。
「これに着替えて、顔を洗ってきてください。」
示された洋服を見て僕は固まった。
「こ、これは？」
「テニスウェアーですわよ。
夕べナツキちゃんが寝たあと、裕香さんが持ってきてくれたの。」
確かにそれはテニスウェアーだったが、
淡いピンクのウェアーは、スカート丈が５０センチしかないものだった。
「こんなミニスカートなんですか？少し動いたら下着が見えてしまいますよ。」
「だから下着が見えないようにこれを穿くのですわ。」
恵理香さんは自分の荷物から、フリルのたくさんついた下着を出して見せた。
「何ですか？そのフリルのついた下着は。」
「これがアンスコですわよ、下着が見えないように穿くオーバーパンツですわ。
ブルマみたいなものですわ。」
アンスコが見えるのも、生下着が見えるのも、あまり変わらないと思ったが、
とりあえずアンスコを穿くことにした。
顔を洗って洗面所から戻ってくると、夕べのお化粧の続きが待っていた。
「顔を洗ってそのままにしておくと、顔が突っ張るから化粧水と乳液は必ずつけるのよ。」
恵理香さんは僕の顔に化粧水をつけながら、講義してくれた。
「え、恵理香さん、僕は男ですってば！」
「なに言ってるんですか、男の子がこんなにきれいな肌しているはずありませんわ。
ナツキちゃんは女の子です。」
恵理香さんに断言され、僕は反論できなくなってしまった。

ようやく化粧が終わると、すでに７時になっていた。
１階の食堂に下りていくと、すでに朝食は並べられクリスさんと真由美ちゃんも席についていた。
「おはよう、恵理香、ナツキ。」
「おはようございます。恵理香さん、ナツキさん。そのテニスウェアーよく似合ってますね～。」
「おはようございます。クリスさん、真由美ちゃん。」
「おはようございます。昨日は突然いなくなってすいませんでした。」
クリスさんと真由美ちゃんが、挨拶してきたので、僕たちも挨拶を返し、席についた。
「ナツキちゃん、私たちも食べましょう。」
恵理香さんに促され席についた時、入ってきた裕香さんを見て僕は叫んでしまった。
「裕香さん、何で裕香さんがショートパンツで、僕がスカートなんですか！」
そこにいた全員が、僕を注目した。
「ナツキちゃんにはスカートが似合うと思ったからそちらにしたんだけど、まずかった？」
「私はスカートのほうが似合うと思いますわ。」
「私も、ナツキにはスカートが似合うと思うな。」
「ナツキ先輩素敵！」
みんなにそういわれ、何も言えなくなってしまう僕だった。

食事を終え、テニスコートへ出ていこうとした僕を止めたのは恵理香さんだった。
「ナツキちゃん、今日も日差しが強いですから、ちゃんと日焼け止めを塗らなければいけませんわよ。」
確かに夏の日差しは強いので、恵理香さんの言葉に従うことにし、
部屋に戻り腕や足、首筋に日焼け止めを塗り部屋を出ようとして、またしても恵理香さんに捕まってしまった。
「日に焼けたナツキちゃんも素敵だけど、女の子は肌の白いのが１番よ。
顔にも塗ったほうがいいですわよ。」
そういうが早いか、日焼け止めを僕の顔に塗りたくり、
その上からUVカットのファンデーションを塗りお化粧を始めてしまった。
「ナツキちゃんのテーマカラーの、オレンジのリップを塗ってハイ完成ですわ。」
鏡の中には見慣れない美少女がこちらを見ていた。
「これが僕？」
お決まりのせりふを言う僕だった。

「ナツキちゃん、テニスラケットは？」
恵理香さんは部屋を出るとき僕に聞いてきた。
「えっ！テニスコートが貸してくれるんじゃないんですか？」
テニスをしたことがない僕はテニスラケットなど持っていなかった。
「テニスラケットは、個人のものを使うのですわよ。
予備のテニスラケットがありますのでこれを使ってください。」
恵理香さんが自分の荷物からラケットを出し僕に渡してくれた。
玄関に降りていくと、クリスさんと真由美ちゃんが待っていた。
「さあテニスを楽しむぞ！」
クリスさんの言葉に暗くなる僕だった。
「ナツキちゃん、私が教えてあげますわ。楽しみましょう。」
恵理香さんがそんな僕を見て声をかけてくれた。

借りたコートに僕たちが入っていくとみんなの注目を浴びた。
それはそうだ、何しろブルーウィンドの人気投票、No３までがひとつのコートにいるのだから注目を浴びないわけがなかった。
テニスを初めてする僕はすっかり舞い上がってしまっていた。
転がっていたボールに乗ってしまい、ころんでしまった。
「ははははは・・」
照れ笑いを浮かべながら立ち上がる僕だった。
恵理香さんに簡単なルール、ラケットの持ち方、ボールのうち方などを教わり実際に打ってみることにした。
「ナツキちゃん、もっと走って。体の正面でボールを捕らえて！
バックハンドは両手で！」
３０分ほどですっかり疲れてしまっていた。
クリスさんと真由美ちゃんは、テニスをしたことがあるのか、少しはラリーが続くようだった。
「恵理香、今日のおやつのアイスクリームをかけてミニゲームしない？
５ポイント先取で、サービスは１球交代でどう？」
「組み合わせはどうしますか？」
「泊まっている部屋対抗でどう？」
「よろしいですわよ。」
僕が口を挟むことなく話は決まってしまっていた。
「ナツキちゃん、勝ちましょうね。」
なぜか力が入る恵理香だった。

ミニゲームはいい勝負だった。
テニス初心者の僕が、足を引っ張りはするのだが、クリスさんはちからまかせに球を打つので、決まればすごいのだが、ホームランのほうが多かったりする。
結局は５対４で僕たちの勝ちになった。
「アー、負けた、負けた。シャワー浴びてドライブに行こうか。」
クリスさんがそういうとあたりから「エー！」という声が上がった。
辺りを見回すとネットに沿って３０人くらいの人たちが僕たちの試合を見ていたのだ。
「もう少し見ていたかったのに。」
そんな言葉に、クリスさんは
「夕方にも来るよ。」
そういってコートを出て行った。

美術館めぐりを終え、再びテニスコートに来たときには、既に５０人位の人たちが金網沿いに集まっていた。
みんなに見られながらテニスをするのはいやだったが、クリスさんや、恵理香さんは何でもないように練習を始めた。
カメラのフラッシュが時々光るのが気になり、テニスに集中できなかった。
「ナツキちゃん、集中していないと怪我しますわよ。」
恵理香さんに注意されたが、なかなか集中できなかった。そんな僕を見てクリスさんはまたしても勝負を持ちかけてきた。
「朝のリベンジよ！　今度は明日の１０時のおやつをかけて勝負よ！」
３時のアイスクリームをご馳走になった僕たちは断れずに対戦することになった。
朝は決まらなかったクリスさんの強打が今度は決まりまくり５対２で負けてしまった。
「私が実力を発揮すればこんなものよ！」
クリスさんは豪快に宣言した。
「明日の朝もう一度勝負ですわよ。」
恵理香さんはよほど悔しかったのか、再選を申し込んだ。
「わかったわ、それじゃあお昼ご飯をかけて勝負しましょう。」
あたりが暗くなり始めたので、テニスは終わりにして、ペンションに戻ることにした。
「また明日も彼女たちが見れるのか、楽しみだな。」
周りで見ていた人たちの声が聞こえた。

シャワーを浴び、夕食を食べているときに、クリスさんの言った一言が明日の騒ぎの始まりだった。
「裕香、明日私がテニスしているところを、デジカメで撮っておいてね。」
「クリスさん、せっかくだからみんなで記念撮影しませんか？」
「うん、いいよ。」
「僕、クリスさんと写真とりたい。」「私ナツキちゃんと写真とりたい。」
「はいはい。安く宿を紹介してくれたんだから、それくらいお安いものよ。」
クリスさんの安請け合いが、どんな結果をもたらすか。
その時点ではわかっていなかった。
前日の反省から、露天風呂には入らずにシャワーで済ませて早めに布団に入った。

翌朝食事を済ませ、テニスウェアーに着替えテニスコートにいくと、100人くらいの人が待っていた。
「誰か有名人でも来るんですか?」
恵理香さんが近くにいた男性に声をかけると、顔を真っ赤にしてこそこそと逃げてしまった。
「皆さん、テニスの前に記念写真を撮りましょう。」
裕香さんの呼びかけで、テニスコートに並ぶ僕たち。
「誰かシャッター押してもらえませんか？」
たちまち名乗り出る人がいた。
「シャッター押したげるから、僕たちと記念写真に写ってよ。」
「いいよ。」
クリスさんは簡単に答えた。
「じゃあ私たちの記念写真に入ってください。」
「僕たちと写りましょう。」
いろいろなところから声がかかる。
「ハイ、ハイ、みんないいよ。」
クリスさんは気軽にこたえてしまった。
テニスコートの周りにいた人たち全部が、記念写真をとるために列を作った。

ようやく列が終わり一息ついていたら、真由美ちゃんが声をかけてきた。
「ナツキ先輩、私とツーショットで記念写真を撮りませんか～？」
真由美ちゃんならいい。と思ってにっこり微笑むと、たちまちほかからも声がかかった。
「わたしもナツキさんと写真撮りたい！」
「ナツキ！私も！」
周りにいた人たちも列を作り記念撮影会になってしまった。
そのうち、スーツを着た人まで記念撮影することになってしまった。
恵理香さんやクリスさんにも人の列はできたが、僕の列が1番長かった。
結局、撮影会に時間がかかり、その日はペンションを後にすることになった。
昼ごはんは、僕がご馳走させられた。

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僕はウェイトレス？７