僕はウェイトレス？�T

普通の男子高校生だった僕がブルーウィンドでウェイトレスとして働き出してはや一ヶ月、
僕の周りの女性は誰もが僕を男性と認めてくれない悲しい状態になっていた。

早番の仕事も後30分ほどになったとき、雅美さんが僕にお客さんだといい、
仕事が終えたら事務室に来るように言われた。
事務室に入るとそこには男性が二人座っていた。

「ナツキちゃんこちらが『街の美少女』のディレクターの伊藤さん、
そちらが芸能プロダクションの加藤さん。」
「木村ナツキです。はじめまして。」
「はじめまして、今日お伺いしたのは、このプロマイドが原宿あたりですごく売れていると、加藤君が見せてくれたのでお伺いしたのです。」
伊藤は胸ポケットから数枚のプロマイドをとりだし、机の上に置いた。
そのブロマイドは、ナツキがテニスラケットを胸に抱え、テニスウェアーを着て歩いているところを正面から取られたものと、テニスコートにころんだ僕が、ウェアーのスカートがめくれているのを気にせずに、照れ笑いを浮かべ起き上がろうとしているところだった。
「原宿の店で繭やマー娘よりも人気があるんです。
ぜひ、アイドルとしてデビューしていただけないかとお伺いしたんです。」
僕は突然の話に戸惑いながらも断ろうとした。
「せっかくですが、僕はあまり人前に出たくないので・・・」
「そんなこといわずに、ぜひ考えてください。
ところで、ナツキさんは御崎高校に通っていますよね？
将来アイドルになるにしても芸能活動を認めてくれている服部学園に、転校しないかと思って薦めに来たんだけれど。」
「服部学園ですか？」
「ええ、服部学園は、恵理香さんや真由美ちゃんが通っているところよ。」
担任には女子の制服を着てくるように言われているし、
クラスの女子にも女の子と思われているのを否定するのは並大抵のことではない。
女子の制服を着ていくなどもってのほかだ。
そう考えると転校して男子として通うのが一番楽なように思えた。
「転校ですか？それもいいかもしれませんね？」
僕がつぶやくと加藤さんはアイドルデビューを同意したのと勘違いしたのか、
「わかりました！」といって飛び出していった。
「ちょ、ちょっと待ってください。」
僕が声をあげたが、聞こえなかったのかそのまま出て行ってしまった。

更衣室に入ると既に恵理香さんも真由美ちゃんもいなかった。
家に帰り、母に転校の話をすると、
「あなたにちょうどいいんじゃない？」といって特に何も言われなかった。

翌日、遅番の仕事に行くと更衣室には恵理香さんと真由美ちゃんがいた、
「ナツキちゃんうちの学校に転校してくるんですって？」
恵理香さんに言われ僕は驚いた、
まだ正式に決まったことではないのに、なぜ恵理香さんが知っているのだろう？
不思議に思っていると恵理香さんが僕に理由を教えてくれた。
「真由美ちゃんが教えてくれたんですわ。」
僕の疑問は解決していない、なぜ真由美ちゃんは転校を知っていたのだろう？
「真由美ちゃん、なぜ僕が転校するのを知っているの？
それにまだ正式には決まっていないんだけど。」
「わたしのパパから聞いたの〜、
『木村ナツキって知っているか？』って聞かれたから、
『前に家に遊びに来た人です。』って答えたら、
『ああ、あの子か、あの子ならうちの学校に来てもいいな。』って話になって、
転入試験なしで転校することが決まったんで〜す。」
まだよく事情を飲み込めていない僕は真由美ちゃんに尋ねた。
「真由美ちゃんのお父さんってなに？」
「私のパパは服部学園の校長もしてるんで〜す。」
ようやく事態を理解した僕は固まってしまった。
「ナツキさん9月からは同じクラスになりま〜す。
ナツキさんと一緒に勉強できるなんて思ってなかったからこれから楽しみで〜す。」
僕はこれから先が思いやられる気がした。
「ひとつ気になっていたんだけど、服部学園ってどこにあるんですか？」
「ナツキちゃん、学校の場所も知らずに転校を決めたんですか？
　服部学園は三笠山駅から歩いて10分くらいのところにありますわよ。」
三笠山駅は、自宅の最寄りの駅から3つ目の駅で、隣の学区にあるのだが、
三笠山駅の近所に共学の学校があるということは聞いたことがなかった。
「三笠山駅の近所に男女共学の学校ってあったっけ？」
「なに寝ぼけたこと言っているんですか。服部学園は女子高ですよ〜」
「ええっ！女子高？」
「正式名称、服部学園女子短期大学付属高校ですわ。」
「ぼ、僕が女子高に通うなんて。」
「なに言ってるんですか、殿方と一緒の学校で勉強するなんていやですわ。
ナツキちゃん、よく今まで我慢してましたわね？」
恵理香さんの言葉が遠くに聞こえているナツキだった。
ナツキの誤算のひとつのは服部学園が女子高だったこと。
２つ目はナツキの学校の記録がすべて女性に書き換えられていた事。
（男子のままだったら女子高なんて転校できないからね）
（さすが山本先生、やることが早い。）
３つ目は転校の手続きがこんなに早く済んでしまったこと。
（普通２週間くらいかかりますよ！）
「なに？恵理香と同じ高校に転校するんだって、おめでとう！」
ぎりぎりに入ってきたクリスさんに着替えを促され、事務室に向かうところで祝福された。
僕の頭の中では「何でこうなるんだ〜！」の言葉が渦巻いていた。
仕事がふっと途切れたときに、これからのことをぼんやり考えていると、
突然声をかけてきたのは、軽薄男の本間修一だった。
「ナツキちゃん、どうしたのぼんやりして。」
「えっ、いやちょっとこれからどうしようか考えていて。」
「これからって？」
「今度、服部学園に転校する事になったんです。」
「服部学園、ああ、あの有名なお嬢様学校だね。」
「有名なんですか？」
「ああ有名だよ。」
知らなかったのは僕だけだったのか。とまた落ちこんでしまった。
（ポーン）注文の呼び出し音がした。
オーダーを取りにテーブルに向かう、
「ハイ、ご注文は何でしょう？」
「あの〜ナツキさん服部学園に転校するって本当ですか？
さっきの会話聞こえてしまったんです。」
「うん、転校することになりそうだねえ。」
「わーい、やったー！私、服部学園に通っているんです。
ナツキさんが来るのならファンクラブ作っちゃいます。」
「それじゃあ、会員番号１番は私ですわね！」
恵理香さんが突然、話に入ってきた。
「じゃあ、２番は私！」
真由美ちゃんも話に割り込んできた。
僕と僕に話しかけてきた女の子は目を白黒させている。
「なになに、夏樹のファンクラブ。私も入るよ。」
クリスさんまで参加を表明した。
「ん？ナツキちゃんのファンクラブ？俺も入れてよ。」
軽薄男の本間修一が声を上げると、たちまち反対の声が上がった。
「男はだめ！」
「ナツキさんのファンクラブは女性限定です！」
（いつの間にそんな会則決まったんだろう？）
修一は拒絶されすごすご引き下がった。
「OGはいいの？」
いつの間にか雅美さんも顔を出し会話に入っていた。
「じゃあ、ｈｐで会員募集しましょうか？」
僕の回りで話は進み、
ブルーウィンドのhp上のナツキのhpで会員募集することになり、
会員番号１〜９はブルーウィンド関係者、
一般会員は二桁以上の番号、
会員は女性だけ、
会員番号の管理は雅美さんが行うこと、
会員証を発行することなどが、あっという間に決まった。
僕はあまりの突然のことにボーと見ているだけだった。
「私、入る！」
「私も入ります！」
辺りを見まわすとたくさんの手が挙がっていた。
「じゃあ会員登録始めるわね。」
店長がデジカメを持ってきて、会員番号順に僕との記念撮影を始めた。
会員証に記念写真を貼り付けるそうだ。
その日のうちに８０人が登録を済ませ、インターネットで募集を始めたら、たちまち５００人が会員になったそうだ。

何とか仕事を終え、家に帰ると居間には制服がかかっていた。
「隣の洋子ちゃん、服部学園に通っていたから、制服もらってきたわよ。」
そう、忘れていたが、洋子姉さんは服部学園に通っていたのだった。
「母さん、もしかして服部学園が女子高って知ってた？」
「当たり前じゃないの、ここらへんでは有名なお嬢様学校よ。あなた知らなかったの？」
「僕は男だよ、何で女子高に通わなけりゃいけないのさ？」
「そんなかわいい格好しているのに、男の訳ないだろう。
最近胸も大きくなってきたみたいだし。」
僕は力尽きて、女の子座りになってしまった。
「僕はおとこなのに、何でこうなるんだ〜！」
僕の声がむなしく家の中に響くだけだった。