僕はウェイトレス？�T

僕の名前は木村夏樹、夏休み前は普通の男子高校生だったのに、ブルーウィンドでアルバイトを始めたところ、ウェイトレスをさせられたのがきっかけで僕の回りは大きく変わってきてしまった。
何しろ、僕の周りの女性は、僕のことを男性とは認めてくれないし（ぼくの母親もふくむ（涙））、
家には女性ものの衣類しかない、女子更衣室しか使わせてもらえない、部屋は女の子の部屋 としか見えないように模様替えされ、ついには女子高校に通わせられることになってしまった。

夏休みも明日を残すのみとなった日、早番の仕事が終わった後、９月からの勤務について打ち合わせが行われていた。
「クリスは以前と同じで月曜から土曜日の早番でいいわね？
裕香ちゃんは、火曜日、木曜日、土曜日の遅番、
恵理香さんは、月曜日、水曜日、金曜日の遅番ね。
ナツキちゃんは人気があるから毎日、開店から閉店まで、
真由美ちゃんは８月までの約束だけど、できれば土曜日と日曜日の遅番で手伝ってほしいんだけれど。」
「エー！それじゃあ学校に行けませんよ。」
「冗談よ、冗談。」
雅美さんは冗談ではないように言った。
「ナツキちゃん、いつ来てくれるの？」
「そうですね、学校を変わるので、しばらくは土日だけにしてくれませんか？」
しょうがないわね、学校に慣れたら、もっと来てね。」

９月以降もブルーウィンドでアルバイトを続けることになった。

８月の人気投票の結果はあまりにも当たり前のものだった。
「９月からはナツキちゃんを除いて考えなければいけないみたいね。」
雅美さんの言葉に僕もそれがもっともだと思うような得票だった。
１位の僕の得票は2,012票。もちろん今までの最高得票であり、２位の恵理香さんが92票、３位のクリスさんが89票だった。
「うーん、ナツキにはかなわないな。」
「クリスさん、私のほうが今月は投票が多かったようですわね、ナツキちゃんにはかなわなかったですけど。」
「食事会はみんなの休みが合う日にしましょう。」
みんなと過ごせることがなぜかすごくうれしいことに感じるナツキだった。

9月1日、新学期の始まる日、僕は服部学園の制服を着て、以前に乗っていた電車と反対のホームにいた。
周りの女の子がみんな僕を注目しているのがわかる。
僕と同じ制服を着た、女の子二人組みが声をかけてきた。
「ナツキさん、私たちと同じ制服着てますけど、御崎高校じゃなかったんですか？」
「ちょっと訳あって、服部学園に通うことになったんだ。」
「エー！　ウッソ〜！　本当ですか？やった〜！」
僕の回りの女の子が手をたたいて喜んでいるのを、向かい側のホームから見ていた女の子たちが見つけて叫んだ。
「エー！ナツキさんが服部学園の制服を着ている！」
「何でナツキさんそっちにいるんですか？」
「御崎高校じゃなかったんですか？」
僕の周りの女の子たちが勝ち誇ったような顔をして向かいのホームを見返している。
一触即発の雰囲気の中、電車がホームに滑り込んできた。

三笠山の駅に電車が着くと、周りは服部学園の制服を着た女の子たちでいっぱいになった。
「ナツキさん、うちの学校の制服もよく似合いますよ。」
「ナツキさん、学校まで一緒に行きましょう。」
僕はたちまち女の子に囲まれた。
女の子たちに先導され三笠山の商店街を歩く姿を人が見たら、イスラエルの民を率いて進むモーゼのように見えたに違いない。
丘の上の校門には「歓迎、ナツキさん」の横断幕がかかっていた。
校門から一人の女の子が走り出てきた、真由美ちゃんだった。
「ナツキさ〜ん、お待ちしていました。心より歓迎しま〜す。」
「なんかすごい歓迎だね、転入生があるといつもこうなの？」
僕が思わず聞くと、
「こんなことは今までありません。ナツキさんだからみんな歓迎してるんですよ〜。」
どうやら僕は熱烈な歓迎をされているようだ。
「職員室に案内します〜。」
真由美ちゃんの後をついていくと職員室に案内され、御崎高校の担任だった山本先生にそっくりな女性の前に案内された。
「山本先生？先生も学校変わったんですか？」
「ウフフフ、そんなに似てる？私は山本陽子、御崎高校にいるのは妹の順子よ。」
あっけにとられている僕を横目に真由美ちゃんは教室に戻っていった。
「御崎高校では男子生徒の真似していたらしいけど、どうしてなの？」
「そのことで相談があるんですが、校長先生はいませんか？」
「残念だけど、校長は学会とかで先週から1ヶ月カナダへ行っているようよ、詳しい話なら始業式が終わった後で、校長代理と話を聞くわ。それじゃあクラスに案内するわ。」
そろそろホームルームの時間なのか、席を立つ先生たちを見て、山本先生も席を立った。

「じゃあ、ここで、ちょっと待っていてちょうだい。」
クラスの入り口で山本先生はそういって部屋に入っていった。
中から先生の声が聞こえてくる。
「知っている人もいるかと思うけど、このクラスに転入してきた人を紹介します。
　ナツキちゃん入ってきて。」
僕が入っていくと、みんなの注目が僕に集まった。
「木村夏樹です。短期間になるかもしれませんが、よろしくお願いします。」
僕が挨拶するとみんなから声が上がった。
「エー！短期間なんていわないでください。」
「ナツキさんとおんなじクラスで、ずーっと過ごしたいです。」
僕は何にもいえなかった。
「じゃあ、そろそろ始業式が始まりますから、体育館に移動してちょうだい。」
山本先生が助け舟を出してくれた。
「ナツキさん、何で短期間になるかもしれないんですか〜？」
体育館に移動する途中で真由美ちゃんが聞いてきた。周りの女の子たちも聞き耳を立てている。
「始業式の後で、校長代理と話してはっきりしてから説明するよ。」
僕はそういって話を終わらせた。

始業式はどこでも同じようにつまらないものだったが、校長代理の挨拶に壇上に上がった人を見て驚いた、真由美ちゃんのお母さんだったのだ。

始業式が終わるともう学校は終わりだった。
僕と山本先生は校長室に入っていった。
中には真由美ちゃんのお母さんが待っていた。
「男子生徒で過ごしていたわけを教えてくれるということだけど、何で私も聞かなければいけないの？」
もっともな質問だったが僕は無視して話し始めた。
「ここ服部学園は女子高ですよね、僕は男なんです。だから僕の転入を取り消してほしいんです。」
「別にここは女子短大の付属高校というだけで、女子高じゃないわよ。県への届出もただの高校になっているし、募集要項にも女子に限るとは書いてないわ。」
「じゃあ、男子が入ったこともあるんですか？」
「いいえ、男子の学生は今まではいないわ、制服も今、着ているものしかないのよ。」
「はアー、まあスカートをはく男子学生なんていませんよね。」
「あなたの書類は女性になっていたし、転校の取り消しなんてできません。」
「じゃあ、もう一度、御崎高校に転校させていただけませんか？」
「転勤などに伴う場合を除き、転校は認めていないの。」
「はあー、何とかならないんですか？」
僕は今までのいきさつを話し、夏休みに入って胸が大きくなったことも話した。
「今のあなたを見て、誰も男性とは思わないわ。うちのクラスの中でも1番女の子らしいわ。」
「そうね、制服の着こなしといい、しぐさといい、女性にしか見えないわ。」
山本先生の言葉に洋子さん（真由美ちゃんのお母さん）も同意する。
「そんなー、僕は男なのに。」
「今のあなたにはその制服のほうがよく似合うわよ。
男子の制服を着てもおかしいから、このままここに通いなさい。体育と身体検査は免除してあげるから。」
「順子もナツキちゃんの男子制服姿は似合わないって言ってたけど、やっぱりセーラー服がよく似合うわ。」
「明日からもここで勉強して、よい社会人になってね。」
結局、僕の転校の申し出は却下され、明日からもこの服部学園に通うことになってしまった。

廊下に出ると真由美ちゃんが待っていた。
「ナツキさん、これからどうなるのですか〜？」
「明日からもここに通うことになったよ。」
「よかった〜。あ、みんな待っているから早く行きましょう。」
教室に戻ると、クラスのみんながほとんど待っていてくれた。
「ナツキさん、明日からもここに通うって！」
真由美ちゃんがみんなに報告すると歓声が上がった。
「ナツキさんの歓迎会を行いたいのですけど、よろしいですか？」
クラス委員長らしき女の子が声をかけてきた。
「あまり派手にしなければ。」
僕が答えると女の子はうれしそうに微笑み、みんなに声をかけた。
「ナツキさんの歓迎会に参加する人！」
みんなの手が一斉に上がった。
「どこでやるの？」
「ナツキさんといえば『ブルーウィンド』しかありませんよ。」
みんなに連れられブルーウィンドに来ると、昼前のお店はすいていた。
「『ブルーウィンド』へようこそ・・・ナツキちゃんたくさんのお友達と来てくれたの？
そのセーラー服よく似合っているわよ。」
ウェイトレス姿の雅美さんは僕たちを禁煙コーナーへ案内してくれた。
みんなは入り口にあった「ナツキファンクラブ」の会員募集ポスターの話でにぎやかになっていた。
雅美さんが僕と真由美ちゃんに声をかけてきた。
「お客さんがいっぱいになったので、ウェイトレスをしてくれない？
もちろん特別手当つけるから。」
僕の歓迎会のために来ているので、断ろうと思ってると回りの女の子たちが、
「ナツキさんのウェイトレス姿、みたい！」
とのリクエストにこたえるため、更衣室で着替えてきた僕たちを待っていたのは、ランチタイムのお客さんだった。
クラスメイトたちへの顔見せもそこそこに走り回る僕たちを、クラスメイトたちは憧れのまなざしで見ていた。
「ナツキさんはやっぱりここの制服を着て働く姿が素敵です。」
委員長らしき女の子の一言にみんなの意見は集約されたようだ。

クラスメイトたちは１２時半ごろには帰っていったが、僕たちは閉店まで働くことになってしまった。
ちなみにクラスメイトたちは全員、ファンクラブの会員になったそうだ。