僕はウェイトレス？

「はあー。いよいよ明日はレクリエーションか・・。」
夏樹は溜息を付きながらカレンダーを見詰める。
カレンダーのその日付の所には、”レクリエーション１０：００集合”と書かれている。
ちなみに書いたのは母親だったりするのだが。（何時の間にか聞きつけたらしかった。）
そしてベッドの上にはこの前買わされた水着と、三枝先輩から貰った水着（よく見ると学校指定のスクール水着だった）があった。
実は水着を持ち帰って母親に見つかった後、両方とも再度試着させられた夏樹だった。
「はー。どうすればいいんだろ。」
途方に暮れる夏樹は部屋をノックする音に意識を戻される。
「夏樹、明日の準備終わったの？」
母親が部屋に入ってきて、ベッドの上の水着を見る。
「何？まだ決めていないの？」
そんな母親の言葉に脱力する夏樹。
「決められる訳ないだろ！・・ってそんな事で悩んでいるんじゃなくて。」
「まあ、学校関係のレクリエーションじゃないんだからスクール水着はマズいと思うわよ。」
夏樹の悲痛な叫びを気にせず、母親はアドバイス（？）してくる。
（何考えているんだよ、母さんは・・。）
そう言っても結局はアドバイスを聞きながら明日の準備をさせられる夏樹だった。

レクリエーション当日朝。
天気は快晴、気温もじりじり上がり、まさに泳ぐには最適な一日。
だが、夏樹は朝から憂鬱だった。
まあ女性用の水着を着て泳がなければならないのだから憂鬱にもなるだろが。
何時も通り、８時ごろに目覚め母親の意味ありげな笑いを見ながら朝食を済ませた夏樹は部屋で沈んだ表情をしていた。
既にベッドの上には昨日の内に準備させられた鞄が置かれていた。
水着は結局先日買った方を入れてある。他にタオルやパレオ、それにサポーター（水着の下に必ず付けるよう言われた）を入れていた。
現在時刻９：００。プールには夏樹の家からバスで２０分くらいだったので、９：３０に出れば大丈夫だった。
「うーん。急病ということで駄目かな。駄目だろうな・・・。」
第一、あの母親を騙せる自信はなかった。
その他の打開策を考えていたが、何も考え付かないうちに時間切れになってしまった。
深い溜息を付いて夏樹は鞄を持って玄関に向う。
「いってらっしゃい。楽しんでおいで。」
母親が台所から顔を出して、夏樹を見送る。（もちろん顔は笑っている）
「い、行ってきます。」
そんな母親の見送りでさらに憂鬱な気分になりながら玄関を出る。
日差しが眩しく夏本番を感じさせてくれたが、夏樹にはありがたくもなかった。

レクリエーションが行われるその場所は、プール以外にもテニスコートやジムなどがある豪華なものだった。
しかしだからといって使用料が高いことはなく、市民が手軽に利用できるところだった。
その為、まだ１０：００だというのにもう人で溢れていた。
集合場所に着いてみると、既にクリスと恵理香が来ていた。
「お、来たな。」
「おはようございます。ナツキちゃん。」
二人が挨拶してくる。
「あ、おはようございます。クリスさん、恵理香さん。」
夏樹も挨拶を返す。
「その服とっても似合ってますよ。」
恵理香が夏樹の服装を褒めてくれる。（本人は複雑な気分だったが。）
今日の夏樹の服装は、白いブラウスとフレアスカート（母親に準備されたもの）だった。
ちなみに、クリスはシャツにホットパンツで、恵理香は涼しげなワンピース姿だった。
前回ラムザに行った時と同様、容姿の目立つ三人がいる為か、周りの視線がすでに集まり始めていた。
（やっぱ目立つよな・・・。）
夏樹がそう思っていると、マネージャーの雅美と裕香がやってくる。
「ごめんなさい、遅れちゃって。」
「おはようございます。皆さん。」
続いて軽薄男（笑）の秀一を始めとする男性陣。
「いやー、たまには私服姿の皆さんもいいですね。」
秀一の何時もの軽薄な挨拶に他の男性陣の苦笑いと女性陣の呆れた視線が集まる。
そして、次に登場したのは・・・。
「おはようございます。ナツキちゃん。」
「おはようナツキ。」
「ナツキちゃんおはよう。」
そう言って現われたのは由希子と翔、メグの美術部の３人だった。
夏樹は口をパクパクさせて雅美を見る。
「誘ったの私。いけなかった？」
といってクリスがにこやかに夏樹に答える。
（先輩や佐藤、紅林まで来るなんて…。）
夏樹はこれ以上知り合いの人間に見られたくなかったのだが。
「さあ行きましょうか。」
そんな夏樹の思いを知らずクリスは皆を促して入り口に向かう。
先ほどより豪華さを二倍にさせながら皆の後を追う夏樹だった。

中に入った一行は更衣室前で当然のごとく二手に分かれる。（もちろん男女別に）
「集合場所は室内プール入り口の所よ。」
雅美が全員に集合場所を伝え、それぞれ更衣室へ入る。
ただし夏樹はそこから動けずに居た。
（えーと、やっぱり男子の方？でも持ってきた水着は・・。）
本来なら自分は男子更衣室を使うべきだが、いくら何でもそこで女性用水着に着替えられるわけにはいかないだろうし。
「何やってるの、ほら早く来なさい。」
だが結局は由希子に女子更衣室に引っ張り込まれる夏樹だった。
だが入った途端さっそく固まってしまう夏樹。
まあそれもしょうがない、広い更衣室に多数の見知らぬ女性達が着替えているのだ。
夏樹は女性の着替えを見てしまうという罪悪感と自分が男だとばれるじゃないかという恐怖感の二つに襲われていた。
これではまだブルーウィンドの時の方がまだマシなような気がした。（それも問題だったが）
一方、夏樹以外の女性陣はさっそく使うロッカーを決め、着替えを始める。
夏樹もこのまま固まっているとよけい怪しまれると思い、慌ててロッカーに駆け寄り、持ってきた鞄を開けタオルと水着を取り出す。
（うーん、やっぱりこれを着なくちゃならないのか。）
取り出した水着を広げ溜息をつく夏樹。
ふと回りを見ると、クリス達はそれぞれの水着を着始めていた。
夏樹は意を決すると持ってきた水着を身に付け始める。
その着替え方は回りの女性のようにスムーズで、初めてに見えない（笑）。
実は昨日水着への着替え方を母親から特訓させられたのだった。
それは裸を見られない様に水着を身につけるやり方やパレオの付け方だった。
それにしても下半身を目立たなくする為のサポーターを既に準備していたり、これくらいの胸パッドなら自然な感じに見えるからと言ってすぐ出して来たりと、いやに手際が良かったのが気になったが。
全員の着替えが終わった時点でお互いの水着の品評会が始まる。
クリスはそのボディを際だたせる大胆な赤のビキニ。
恵理香はエメラルドグリーンのワンピースと長めのパレオ。
裕香はピンクのフリフリ付きワンピースとパレオ。
由希子はタンクトップのビキニとパレオ。
翔は黒の競泳用。
メグはライトグリーンのワンピース。
そして夏樹のブルーのワンピースとパレオ。
「その水着大胆」とか「その色いいわね」などと盛り上がる女性陣。
もちろん夏樹も品評の対象にされたのは言うまでもない。

集合場所には既に男性陣が到着し、女性陣を待ちかまえていた。
既に彼らの頭の中は女性陣の水着姿のことでいっぱいだった。
そこへ待望（笑）の女性陣が到着する。
「はい、お待たせ。」
クリスがそのナイスバディを惜しげもなく見せながらやって来る。
他の女性陣もクリスほど大胆ではないが、それなりにアピールしている。
だが、夏樹だけは恥ずかしさのあまりそれどころでは無かった。
もっともそれが余計に回りの注目を集めていることに夏樹は気付いていなかったが。
それにしてもこれだけの美女・美少女に囲まれてもまったく違和感がない夏樹。
すね毛もなく、細い手足と顔つき。知らない人間が夏樹を見て男だと思う者はいなかった。
いや、知っている人間達の中でさえ男ということを忘れている（笑）。
回りから羨望と嫉妬の視線を浴びながら一行はプールサイドに移動し、荷物を置く。
「さあ、泳ぐわよ。」
今にも飛び出しそうな勢いでクリスがプールに向かう。
「クリス、準備運動くらいしなさい。」
だが雅美に止められ、全員で準備運動をさせられる。さすがマネージャーである（笑）。
その後は各自泳いだり、日光浴したり、食べたりして過ごす。
夏樹は、裕香やメグと共にウォータースライダーに挑戦させられて二人に思いっきり抱きつかれ真っ赤になったり、恵理香と共に日光浴していてナンパされたりと楽しんでいた（笑）。
そんな事もあったが、おおむね平穏に時間は進んでいった。
しかし、トラブルの種は確実に夏樹に迫っていた。
昼飯を食べ終わり、休憩していた夏樹達に場内アナウンスの声が聞こえてきた。
「本日１４：００より、プール特設ステージにおいて水着美人コンテストを行います。」
そのアナウンスにクリスは、興味深そうにそのステージの方を見る。
「参加希望の方は１３：３０までにステージにお越し下さい。」
クリスは女性陣の方を見ると早速参加者を募り始める。
「どう？出てみないかしら。」
夏樹達は顔を見合わせる。
「恥ずかしいですから私は・・・。」
恵理香は手を振って断ってくる。
「私は出ないわよそんなもの。」
雅美も出ないようだった。
「私も遠慮させていただきます。」
由紀子も興味ないとばかり断る。
「えー、私なんか駄目ですよ。」
メグもパスする。
「そんなの出るの無理です・・・。」
裕香もパスしてきた。
「私は構いませんよ。」
翔は参加してもいいようである。
「すると・・私と翔と・・うーんあと一人くらい。」
そう言ってクリスは、皆の話をぼんやり聞いていた夏樹を見る。
夏樹にしてみれば、いくらなんでも水着美人コンテストは男である自分とは縁がないと思い、話に加わっていなかった。
しかし、クリスはそうとは考えなかったらしい。
「よし、ナツキちゃんアンタも参加しなさい。」
突然名指しされた夏樹は思わず立ち上がって抗議する。
「待って下さい、水着美人コンテストに僕が出られるわけないじゃないですか。」
「いえ、ナツキちゃんなら大丈夫ですよ。」
恵理香はにこやかに強調する。
「そうね、ナツキちゃんなら男だけでなく女の子からも人気が集まりそうだし。」
由紀子はにこにこしながら断言する。
「店での人気を考えると、いいトコまでいくかもしれないわね。」
雅美も妙に納得した表情で言う。
完全に女性陣の総意は夏樹参加で固まったらしい。
それに加え秀一を始めとする男性陣も加勢し、夏樹のコンテスト参加が決定した。
（はー、まあ適当にやればいいか。いくらなんでも優勝なんかありえないし。）
夏樹はそう思ったが、それは甘かった。
現に、男達に声を掛けられるのは何故か女性陣の中で夏樹が一番だったし、女の子達から熱い視線で見つめられていた。（本人は自分の水着姿が恥ずかしく、それどころではなかった。）
時間になり、クリス、翔、夏樹の三人はプール中央にある特設ステージに向う。
到着した三人は受付で簡単なアンケートに答え、開始までステージ横で待機する。
既にステージ前には多くの人が集まり始めていた。
また、ステージ上にはイスと机が置かれ、スーツを着た男性やラフな格好の若者などが席に着いてた。どうも審査員らしい。
やがて、コンテストが始まり、夏樹達はステージ上に並んで、司会者から色々な質問を受け始める。
質問内容は、彼氏はいるのかとか趣味は何なのかとか、まあ平凡なことだったが、
夏樹に対しては「君のスリーサイズは？」と聞かれ、真っ赤になって「教えません」
と言って会場を笑わしていた。
それから「各々の得意なことをやってみて下さい」と言われ、クリスはダンスを披露し、翔は歌を歌った。
やがて夏樹の番になったが、何もやるものが無かったので何か話をしてお茶を濁そうとした時だった。
「きゃー、守ちゃん！」
女性の悲鳴が観客席の後ろから響いてくる。
慌てて皆がそちらを見ると、ステージ前にあるプールの真ん中あたりに４、５歳ぐらいの子供が溺れている。
どうも親の注意がそれているうちに浮き輪ごとそこまで行ってしまっていたらしい。
その浮き輪を何かの弾みで離したのだろう、離れた所に流れて行ってしまっている。
プールの監視員がが慌てて向おうとした瞬間、一つの影がステージから観客の中を通りプールに飛び込む。
水しぶきが消えると、水中を青い水着の女性が子供に向って行くのが見える。
非常時なのにそれを見ていた人々はその女性が人魚のように見えた。
その人魚は子供のところにつくと、やさしく抱き上げる。
人魚の正体は夏樹だった。溺れる子供を見た瞬間に誰よりも早く飛び込んだのだった。
意外なことに夏樹は泳ぎが結構うまかった。（実際中学時代は水泳部に誘われたことがあった。）
「もう大丈夫だから。」
そう言って夏樹は子供をあやしながら、プールサイドに向う。
プールサイドにいる人に子供を渡し夏樹も引き上げてもらう。
ほっとしてプールサイドに立った瞬間、拍手が鳴り響く。
「え・・・。」
プールに来ていた全ての人たちが夏樹に拍手を送っているのだった。
「ありがとうございます。」
子供の母親が泣きながらお礼を言ってくる。
「すごいな、ねえちゃん。」
「よくやったぞ。」
「偉いわ。」
周りの人たちに声を掛けられたり、握手を求められる。
「いえ、僕は夢中で・・。」
夏樹は面喰らいながら答える。
それほど特別なことをしたつもりはなかった、自分に出来ることがあるなら即実行という何時もの行動のつもりだったのだが。
騒ぎはしばらく続き、収まったのは３０分も後だった。
「残念ながらコンテストは中止せざるをえません。」
ステージ上で司会者が喋っている。
まあ、しょうがないだろうと夏樹は思った。
なにしろプログラムの最初の方で中断してしまったのだから。
だが司会者のセリフに夏樹は驚く。
「ただ、優勝者については決定したので発表します。
これは審査員一同と参加者全員が全員一致で決定しました。」
（そういえば僕が周りの人たちに声を掛けられている間、ステージ上で話し合っていたみたいだったけど。）
「観客の皆様も賛成していただけると思います。」
司会者はそう言って腕を上げて発表する。
「優勝者はエントリーＮｏ．９番の木村ナツキさんです。」
その瞬間、場内は割れんばかりの拍手や歓声に包まれる。
「な、なんだってー？！」
夏樹は思わず叫んでしまうが、周りの参加者に促され前の方に出て行く。
「受賞の理由については説明の必要はないと思いますが、あえて言えば彼女の示した勇気ある行動に対してです。」
司会者の受賞理由の説明が続く。
「それでは市長より優勝トロフィーと賞状が授与されます。」
５０歳くらいのスーツを着た男性がトロフィーと賞状を持って立っている。
市長なんかめったに会ったことのない夏樹は緊張して市長の前に立つ。
「おめでとう、君の勇気ある行動はすばらしかったです。」
トロフィーと賞状を渡した市長は突然夏樹の手を握り締める。
驚いて固まる夏樹に市長は真剣な顔つきで話し掛けてくる。
「それから個人的にもお礼を言わせてほしい。孫を助けてくれてありがとう。」
「お、お孫さんだったんですか。」
あまりの偶然に再び驚かされる。
ふと夏樹は市長の後ろに立っている先ほどの親子に気付く。
「そうなんだ。今日私が来るので、この子達も遊びに来ていたんだが・・。」
そう言って市長は二人を自分の前に立たせる。
「もし君がいなければ大変なことになっていただろう。」
夏樹はしゃがみこんで、溺れていた子供と視線を合わせて話し掛ける。
「もう大丈夫かい？」
話し掛けられた子供は恥ずかしそうに母親の足に捕まっていたが、母親に”お礼を言いなさい”と言われ、おずおずと夏樹を見るとお礼を言う。
「おねえちゃん、ありがとう。」
（おねえちゃんじゃないんだけど・・・。）
思わずに苦笑いしてしまった夏樹に無数のフラッシュが焚かれる。
「え・・・。」
何時の間にか”報道”と書かれた腕章をつけたカメラマンが夏樹達を囲んでいた。
それだけでなく、ＶＴＲカメラらしい物で撮影している。
夏樹は自分の女装姿を撮られていることに気付き思わず逃げたくなったが、受賞式はその後も続いていた為駄目だった。
その後、副賞の授与（ここのプールやテニスコートの無料パスだった）、記念撮影が行われ、ようやく開放されたのはそれらから１時間後だった。
「すてきでしたわ、ナツキちゃんの姿。」
恵理香は感激して夏樹に抱きついてくる。
「私も感激しました。ナツキちゃん凄いです。」
裕香もそう言って負けじと（笑）夏樹に抱きついてくる。
前後からの水着姿の女の子に抱きつかれ貧血を起こしそうになる夏樹。
メンバーがステージ上から開放された夏樹の所に集まってくる。
「こりゃ明日の新聞の地方版に大きく載るわね。」
クリスが抱き合っている３人の後ろで腕を組みながら断言する。
「ケーブルＴＶ局の人達もいたから、今日のＴＶニュースにも大きく出るわよ、きっと。」
３人を苦笑いして見ていた雅美が夏樹達に言ってくる。
「ナツキちゃんの人気はこれでさらに高くなるわね。」
由紀子が嬉しそうに話し掛けてくる。
「ファンは近隣の男子・女子中高生だけではなくなりそうですからね。」
「ブルーウィンド、ますますお客さん増えますね。」
翔とメグは顔を見合わせて深く頷いている。
ウェイター連中も口々に賞賛している。
だが夏樹にとってはそれどころではない。
「待って下さい。それじゃ僕はこのまま・・・。」
「そうね、これで貴方ますます男の子に戻れなくなったわね。」
情けない顔をした夏樹に由紀子がさらりと言う。
「まあもういいじゃない、貴方は女の子なんだから。」
クリスはそう言って未だに抱き合っている夏樹達の肩を抱く。
「今更殿方だと言っても、どなたも信じませんわ。」
抱きついている恵理香が言う。
「そうですね、こんなに可愛いんですからナツキちゃんは。」
同じ様に抱きついている裕香もそう言ってくる。
（そんなー。僕はいったいこれからどうなるんだよ。）
だがそんな夏樹の苦悩をよそに回りは盛り上がり続けるのだった。
それは帰る時の更衣室では取り囲まれ様々な質問をされ（答えていたのは何故かクリスと由紀子だったが）、帰り道では沢山の人たちに声を掛けられたことで夏樹は嫌と言うほど思い知らされた。

へとへとになって（泳いだせいでは決してない）家に帰り着いた夏樹に更に追い討ちが掛けられる。
出迎えた母親に「あんたＴＶに出てるわよ」と言われ居間に連れて行かれたのだ。
そのＴＶでは夏樹がステージからプールに飛び込み、子供を抱き上げているシーンが放映されており、「青き女神が現われたようです」というナレーションが付いていた。
「女神ねぇ。まあ、確かにそう見えるわね。」
と笑った母親に肩を叩かれ、夏樹はがたっと崩れ落ちる。
「僕は男だってばー。」
夏樹の叫びは、ＴＶから漏れる「まさに女神みたいな素晴らしい女性ですね」というコメントと母親の次の一言の前に空しく消えていった。
「そんな容姿をしていて何をいまさら。」
まあスカート姿で女の子座りしていては全く説得力がないのだが。
「え、何時の間に・・。」
どうも女性の仕草が板に付いてきた様で、さらに落ち込む夏樹。
だが気付いていただろうか、そんな夏樹を意味深な笑顔で見詰めながら母親が漏らした一言を。
「上手くいっているみたいね、あと少しで・・・・。」