正義のミカタ

その2・忘れない想い出


今日は初めて和ちゃんの家にお泊まりする。
二階にある和ちゃんの部屋に入った。
部屋の中はベッドと机と椅子と…って私の部屋とあまり大差なかったわ。
「美咲。寝間着の代わりにTシャツとジャージのズボンでいいかな?」
「うん、ありがとう」
和ちゃんから、服を借りた。着替えている間、和ちゃんはベッドから布団をおろして床に敷くと、押入の中からも一組の布団をおろしてきて、その横に敷きはじめた。
「今日は私も床で寝るから」
和ちゃんはわくわくした表情でテキパキと行動している。
「何か、修学旅行みたいだね、美咲」
「そういえば…そうだね」
「みんな同じ部屋で一緒に寝泊まりして…枕投げして…あ、そうだ、今からやる?」
和ちゃんは枕を頭の上に掲げた。
「ここじゃあ、ちょっと…」
枕投げには狭すぎるよ…。
「そっか、残念」
和ちゃんは枕を定位置に戻してパジャマに着替えはじめた。
「…美咲、なんか様子が変だけど…、楽しくない?」
「な、何でもないわよ。さ、もう、寝ましょ。私、慣れない運動したから疲れちゃった」
「う…ん、布団の中でお話するのもまた楽しいんだけどな…」
つまらなそうにしてた和ちゃんも布団の中に潜り込んだ。
ごめん、和ちゃん。ちょっと思い出しちゃったのよね、中学の時の修学旅行のこと…。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

中学2年の秋、もうすぐ修学旅行に行くというのに、あまりうれしくなかった。
別に友達を作るのが嫌いなわけじゃなかったけど、昔から気づいた時にはいつも一人だった。

「今日のホームルームは、修学旅行でのグループ分けをやります。自由行動はもちろん部屋割りもこのグループ単位で決めることになります。1グループ5人ぐらいで分かれてください」
みんな仲の良い友達同士で固まったけれど、何人かは一人でポツンと残ってしまった。
私もその中の一人だった。
「何だ、友達がいないのか?別に6人でも7人になってもかまわないぞ?」
と、先生のアドバイス。
「吉田、こっちに入りなよ」
「林さん、よかったら入る?」
グループからの誘いを受けて、だんだん一人でいる人が減っていく。最後に残ったのが、
「…佐藤、あとはおまえだけか」
…そう、私だけだった。
「どこか入りたいところはないのか?自分から申し出ることも必要だぞ」
…一言、言いたいけど…勇気が出ないの…。胸がドキドキしちゃって…金縛りにあったみたい…。それに、入れてくれそうな友達もいないし……。
「先生、佐藤は一人が好きみたいだから、それでいいんじゃないですか」
誰かが手を挙げて意見を言った。
「そうだよ、だって、いっつもそうだもん」
回りもその意見に同調している。
一人が好きってわけじゃないのよ、話しかけるのが苦手なだけ…。
「まいったな、一人で行動させるわけにはいかないし……」
先生が回りを見回した。
「ん?山下のグループは4人だけじゃないか。5人ぐらいでって言っただろう。
佐藤、入れてもらいなさい」
「ちょ、ちょっと先生、待ってください」
「そうです、そんなの聞いてません」
山下さん達が騒ぎ始めた。

(キーンコーン、カーンコーン)

「お、ちょうどいい、今日のホームルームはこれで終わり」
先生はさっさと教室を出ていってしまった。あとに残ったのは妙に暗い空気…。
「…佐藤さん、悪いけど、顔、貸してくれる?」
いつの間にやら、山下さんのグループに取り囲まれてしまった。


「ゴメンねー、大事な話があるのよ、他の階のトイレ使ってくれるー?」
女子トイレの入り口で、山下さんのグループの二人が他の人を入れないように見張っている。
私と山下さんたちは、その中の洗面台の前にいた。
「…佐藤さん、修学旅行さぁ、休んでもらえない?」
「え…?」
「当日、急に熱が出たとか適当にごまかしてくれればいいのよ」
「ど、どうして…ですか?」
「どうして?
…せっかく楽しい想い出の旅行になるかと思ったのにさ、あんたが来るとつまんなくなるのよ」
「そ、そんな…」
「もともと、あんたとは別に親しくないんだし、こっちは楽しくもなんともないのよねぇ。
そっちだって私たちとじゃイヤなんじゃないのぉ?」
そんなこと…ないもの…。ホントは……私だって行きたいのに……。
思わず涙がこぼれそうになった。
「な、何よ。泣きたいのはこっちの方よ」
そ、そんなこと言ったって…。

「イジメはいけないんだよ」

急に誰かの声がした。山下さん達も私もビックリする。
「な、何?」
トイレのドアが開いて、中から一人の少女が現れた。
「あ、あんた、隣のクラスの高梨?立ち聞きしてたの?」
「立ち聞きとは失礼ね。あなた達が来る前からここにいたのよ。勝手に話しはじめたのは、そちらの方」
「…た…高梨の方こそ…イジメだなんて誤解もいいとこだわ。私たちはね、彼女に意見を言ってるだけよ」
「ふーん、彼女の気持ちを無視して自分の言いたいこと言ってるわけだ。
それって、十分イジメとおんなじなのよね」
「な、何よ。あんたこそ、私たちの気持ちがわかるの?」
「わからないわね、自分のことしか考えてない人の気持ちなんか」
「な…っ」
山下さん達が言葉をつまらせて、お互いの顔を突き合わせ相談しはじめた。
「…私、聞いたことある…。高梨って、この手の論議に負けたことないんだって…」
「それって、ただのヘ理屈なんじゃないのぉ?」
そう言った山下さんが、まるで最後の切り札のように言い放った。
「高梨、これは私たちのクラスの問題なのよ。関係のないあなたは口をはさまないでちょうだい。」
だが、高梨さんはそれには動じない。
「……関係ないってことはないのよね。だって、修学旅行、私も行くのよ」
「あ、当たり前でしょう?同じ2年なんだし…」
「で、その子と一緒にグループ行動しようと思ってるんだけど」
「は?だって高梨は隣のクラスでしょ?」
「クラスが違うからって、一緒に行動しちゃいけないってことじゃないのよ。
実を言うとね、私って、自分で言うのもなんなんだけど、先生から人望厚いのよね。
それで全クラス内でどうしてもグループに入れない子のとりまとめも先生から頼まれてるのよ」
「そ、そんなの初耳よ。聞いたこともないわ」
「うん、だって…」
ここで高梨さんが山下さんの顔に近づいて、小声でささやいた。
こんな極秘事項、大きな声で言えるわけないでしょ
「あ、あんた……何者なのよ?」
「…"正義の味方"」
………………
一瞬の沈黙のあと、山下さんが冷ややかな表情で口を開いた。
「…バッカじゃないのぉ。行きましょ、みんな。こんな変な人とはつき合ってらんないわ」
「山下、佐藤のことはどうすんのよ」
「この"正義の味方"さんとやらが面倒みてくれるってさ」
山下さんのグループはみんなトイレから立ち去っていった。残ったのは私と高梨さんだけ。
「やぁねぇ、あの人たちトイレから手も洗わずに行っちゃったわ。さ、私たちも早く行きましょ。こんなとこ長居するとこじゃないわ」
高梨さんはさっさと手を洗いはじめた。私もつられて手を洗う。
「あ、あの…」
「ん?」
「一緒にグループ行動って…」
それぞれハンカチで手を拭きながら、トイレを後にする。
「ああ、さっきの話ね。半分ホントで半分ウソ。
ホントは、他のクラスに来た転校生と、これまた別のクラスの不登校の子の面倒を頼まれただけなのよ。もう一人増えたって大して変わらないしね」
「そ、そうなの…」
「先生には私から説明しとくけど…よけいなお節介だった?」
「う、ううん」
「回りは変な目で見るかもしれないけどさ、気にしないで楽しくやっていこうと思うんだ。
だって、一人ぼっちでいいなんて言う人はいないはずだから」
そう言って高梨さんは、照れくさそうに笑いながら話を続けた。
「あははは…ちょっとこれはクサいセリフだったかな、さっきの場所が場所だけに」
「そ、そうね…」
………高梨さんとなら、うまくやっていけそうな気がする…。
そうだ、今、言うのよ、勇気を出して…。

「あ、あの…ありがとう」
「別に大したことじゃないわよ」
「そ、それと…あの…あのね…」
「ん?」
振り向いた高梨さんの顔は、何でも受け止めてくれそうに見えた。
「…私と友達になってください」
……言った。思い切って言った。
「今さら何言ってるのよ。もう十分友達でしょ」

これが私と高梨さん…和ちゃんとの忘れられない出会いになった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「……美咲、眠れないの?」
「え?」
和ちゃんがいつの間にか私の顔を覗き込んでいた。
「和ちゃん…起こしちゃった?」
「起こしちゃった、というか、もともと眠れそうになかったのよ。こういうの何かワクワクしちゃって」
そう、和ちゃんはこういう性格なのだ。そんな和ちゃんに魅力を感じて、私は友達になったんだ。
「ゴメンね、私が寝ましょうなんて言ったから…」
「ううん。それよりも美咲、今度はつき合ってもらうわよ、話したいこといっぱいあるでしょ?」
「え?もう遅いんじゃ…」
「明日はお休みだよ。たまにはハメを外しましょう。つき合ってくれないと…」
(こちょこちょこちょこちょこちょ)
ひゃぁ?!ど、どこ触ってるの?ちょ、ちょっっとっぉ
和ちゃんにくすぐられながら、修学旅行の時も同じ様なことをやっていたのを想い出していた。私にとっては忘れられない想い出…。くすぐられるのは好きじゃないけど、こういうのは嫌いじゃない。今夜も楽しい夜だった。
「えい、お返しだよ」
(こちょこちょこちょこちょこちょ)
「わっ?!み、美咲、そこは反則だって…きゃはははは」
(その2・了)

(あとがき)
今回の話は、ちょっとほろ苦い青春ものにしてみました。
実は作者の実体験がモチーフだったりして・・・。
ラストシーンのところで、Hな感じを受けてしまった方へ・・・それは考えすぎです(笑)
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