谷
車からシャベルを出すと、2人はオーガー達を片付け始める。
穴を掘り、死体を放り込む。
1時間かけて片付け終わると2人は顔を見合わせて溜息をつく。
「さて、どうするかな、これから・・・。」
ロベリヤは明け始めた空を見ながら呟く。
「交代で運転と睡眠をとりましょう。大丈夫ですか?」
エリカはシャベルを4WD車に戻しながら聞いてくる。
ロベリヤは肩を竦めるとシャベルを地面に突き刺す。
「まあ、何とかなるさ。」
エリカは苦笑いをすると後部ドアを閉める。
「壊さないで下さいね。高かったんですから。」
キャンプ道具をしまい、カンパンとインスタントコーヒーの簡単な朝食をとり2人は出発する。
二時間毎の運転を交代しながら4WD車は進んでいった。
やがて4WD車は険しい山道に入ってゆく。
車幅ぎりぎりの道を進み4WD車は高い崖に囲まれた異様に荒れ果てた場所に出る。
エリカは車を谷の入口近くに止めると外に出る。
ロベリヤも降り、エリカの後に続く。
「さて、ここが谷の入口です。」
エリカはそう言って持ってきた双眼鏡で谷の奥を見る。
「これからどうするんですか。」
双眼鏡で辺りを警戒しながら問い掛けるエリカにロベリヤは硬い表情で答える。
「探し物がある。もっとも何処に在るかまでは分からないがね。」
エリカはそんなロベリヤを横目で見る。
「その探し物っていうのは・・・。」
ロベリヤは黙ったまま谷の奥を凝視する。
しばらくして、ロベリヤが聞いてくる。
「この奥には連中の巣があるんだろ。」
エリカは双眼鏡を下ろすと、ロベリヤの方を見る。
「ええ、特大のがあります。」
ロベリヤは何か考えているようだったが、4WD車に戻り荷物を取り出す。
「あんたはここで待っててくれないか。」
ライフル銃を肩に掛けロベリヤはエリカに言う。
「ここまで案内してくれて助かったよ。まあ、ここからはオレだけで行く。」
エリカはそんなロベリヤを暫く見ていたが、肩を竦めて答える。
「ここまで来て今さらそれもないでしょう。」
そう言ってエリカはロベリヤと同じように荷物を引き出し、肩にサブマシンガンを掛ける。
「ちょっと待った、さっきも言ったがこれはオレの・・・。」
だが、ロベリヤはその先を言えなかった。
エリカがロベリヤに鋭い視線を浴びせてきたからだった。
「案内を買って出たんですから、最後まで付き合います。」
そう言うとエリカは先に立って歩き出す。
ロベリヤは目を見開いてエリカを見る。
そんなロベリヤにエリカが振り向いて声を掛けてくる。
「行かないんですか。」
「ったく、あんたも変わっているよ。」
心底呆れたような表情をするとロベリヤはエリカの後をついて谷へ向う。
谷は静まりかえっていた。
生命の気配はまったく感じられない。
ロベリヤはその静寂に落ち着かなくなってくる。
「谷ってこんなものだったのか、連中の姿まったく見えないぞ。」
一方のエリカはサブマシンガンを構えながら鋭い視線を左右に走らせている。
「連中は穴倉の中で息を殺して、此方を見てますよ。」
ロベリヤは左右の穴を見る。
「なるほどね、連中オレ達を値踏みしているわけだ。」
二人は左右の穴、オーガー達の住居の出入り口を用心深く見ながら谷の奥へ進む。
今の所オーガー達に動きはなかった。
やがて二人は谷の中央付近にたどり着く。
相変わらず静かだったが、先ほどとは違い回りから何とも言えない気配を感じる。
ふと、ロベリヤは前方にある物体に気づく。
どうやらそれは横倒しになった車両のなれの果てだった。
積んであったらしい荷物が回りに散乱し朽ち果てている。
エリカもそれに気付き、二人は慎重にその車に近付いてゆく。
小型のバギーらしいその物体は、派手に転倒した挙句に崖に衝突し大破している。
「これじゃ乗ってた人間は・・。」
そう言ったエリカは、震えてるロベリヤに気づく。
そのバギーにロベリヤは見覚えがあった。
「キリー・・・・。」
エリカはロベリヤの口から思わずこぼれた名前に、彼女の顔を見る。
思いつめたその目はバギーの運転席の始動キーに付けられている青いキーホルダーに向けられている。
「ロ・・・。」
話し掛けようとしたエリカは、後ろから近付いてくる気配に振り向きざまサブマシンガンを向け発射する。
短い発射音と共に放たれた弾丸が近付いていたオーガーを吹き飛ばす。
その音に反射的に振り向いたロベリヤもライフル銃を発射する。
ざわざわ・・・・。
二人とバギーの残骸を囲むように、オーガー達が近くの穴から出てくる。
「どうやら私たちの判決が決まったみたいですね。」
エリカはサブマシンガンの装弾を確認しながら回りを見渡す。
ロベリヤは蒼白な顔をしながらエリカを見る。
「ここはオレが防ぐ、アンタは逃げてくれ。」
エリカはそんなロベリヤの言葉に顔を顰める。
「もし死のうというなら、そんなことは許しませんよ。」
自分に向けられる強烈な視線にロベリヤはたじろぐ。
「さっきも言いましたが、最後まで付き合います。」
エリカは視線を和らげると、ロベリヤの見ていたキーホルダーを取り上げる。
「何があったのかは聞きません、でも貴方は前進する為に来たはずです。」
じりじりと間合いを狭めてくるオーガー達を見詰めながらエリカはロベリヤに言う。
「・・・ったく、アンタにはかなわないよ。」
ロベリヤは苦笑いをしながらエリカを見る。
「確かにそうだ、オレはここに決着を付ける為に来たんだ。」
(ここでくたばったら、キリーの奴に笑われるよ。)
ライフル銃を構えなおすと、ニヤリとエリカに笑いかける。
その笑顔にエリカも笑い返す。
「ギェーー。」
オーガー達が一斉に襲いかかってくる。
二人の銃が同時に火を噴く。
横一列のオーガーを吹き飛ばし、二人は後退しながら谷の入口へ向う。
その間にオーガー達は続々と巣穴から出て二人に向ってくる。
「満員御礼だな、これは・・。」
ロベリヤはライフル銃を連射しながらぼやく。
「あんまり嬉しくないですけどね。」
エリカは持ってきていたリュックから火炎瓶を取り出し、火を付ける。
「バギーにはまだガソリンと弾薬が残っています。」
そう言ってエリカは、「貴方に任せます」という感じで火炎瓶を渡す。
火炎瓶とバギーを交互に見詰めていたロベリヤは頷くと、それをバギーに投げつける。
ぱっと火がバギーに付く。
二人は一連射すると一目散に走り出す。
オーガー達がバギーの周りを通り、2人に向おうとした瞬間。
激しい炎が上がり、それがオーガー達を包み込む。
その炎を見ながらロベリヤはもう二度と会えないだろうかつてのパートナーに別れを告げる。
(そのうち会おうぜ、何年先になるか分からないけどね。)
燃え盛る炎をバックに二人は死の谷を駆け抜ける。
それが生者の務めといわんばかりに。
(第1部・END)
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