トワイライトクライシス

「クスリを届けたいんです、それも出来るだけ早く。」
その少女は切羽詰った顔をして頼み込んでくる。
「多くの子供たちが、このままでは死んでしまいます。でもこのクスリさえあれば・・。」
エリカの元に訪れた一人の少女。
詳しいことは、少し前に遡る。

谷から帰ってきて、１ヶ月経っていた。
すぐ街を去ると言っていたロベリヤは結局そのまま居着いてしまった。
「ここが気にいったしね。そう、アンタもね。」
それに対しエリカは苦笑いをするだけだったが。
ただ、他のチームに入ることはしなかった。
それが過去にあった事が原因だとはエリカは思ったが、あえて言わなかった。
その代わり度々一緒に組んでハンティングするようになり、そのことで街でも有名になりつつあった。
もっともエリカの本業は雑貨屋の売り子であり、毎回一緒にハンティングをするわけにはいかなかったが。
そしてそんな二人に新たな依頼が舞い込んできた。
そう、前回以上にやっかいな依頼が・・・・。

その日、エリカは知り合いのハンターに届け物をして店に戻ってきた。
そして店の前で途方にくれている、自分と同じ位の少女に気付いた。
「お店に御用かしら。」
エリカはそう言って、少女に声を掛ける。
振り向いた少女はすがるようにエリカに聞いてくる。
「はい。エリカさんですか？」
切羽詰った少女の言葉にエリカは目を見張る。
取り合えず店の扉を開け、少女を招き入れながら聞いてみる。
「私に用かしら？」
少女は店の中を興味深かそうに見ながら答える。
「はい、実は近くの宿屋のご主人から聞きまして。」
エリカは帳簿を引っ張り出しながら、その少女を見る。
「近くの宿屋って、ヘルシングの？」
ご主人なんて柄じゃないだろうとエリカは心の中で笑ってしまう。
「はい。実は私、ハンターの方を雇いたかったんですが、誰もいないからこちらを訪ねろと。」
「まあ、そうでしょうね。」
少女の言葉にエリカは肩を竦めて、記入しようとしていた帳簿を閉じる。
実は３〜４日前から街道（と言っても明確な道があるわけではないのだが）にオーガー達が多量に出現していた。
「おかげで、ハンター連中はその駆除や隊商の護衛にほとんど借り出されているから。」
エリカはカップを戸棚から出し、コーヒーを入れる準備を始める。
「そういう訳だから、今ハンターを雇うのは暫く待った方がいいと思うわ。あ、コーヒー飲むかし・・・ら・・」
エリカはそう言いながら少女を見て言葉を途切れさす。
「クスリを届けたいんです、それも出来るだけ早く。」
その少女は切羽詰った顔をして頼み込んでくる。
「多くの子供たちが、このままでは死んでしまいます。でもこのクスリさえあれば・・。」
なんでヘルシングのご主人（笑）がここを紹介したのかをエリカは理解した。
（厄介事をこちらに押し付けたわね、あの人は・・・。）
エリカが何か言おうとした時、店の扉が開かれる。
「よう、エリカ。戻ってたのか？」
入って来たのはロベリヤだった。
彼女は護衛にも街道での駆除にも参加していなかった。
どちらもエリカが店の関係で出られなかった為、単独では無理と判断したからだった。
入って来たロベリヤはお客の少女に気付き、頭をかく。
「おっと、来客中だったのか。」
少女は突然入って来たロベリヤに驚いている。
そんな少女の態度に苦笑いしながらロベリヤが聞いてくる。
「邪魔なら出て行くぞ？」
「いえ、いいわ。貴方にも聞いてもらった方がよさそうみたいだし。」
エリカは溜息を付いて、少女に向き直る。
「それで依頼のこと聞かせてもらえるかしら。」
それを聞いた少女の顔がぱっと明るくなる。
「はい、分かりました。実は・・・・。」
だが、話しかけた少女をエリカが遮るように手を振る。
少女は再び不安な表情を浮かべてエリカを見る。
「あ、ごめんなさい。その前に聞きたいことがあるの。」
少女はエリカの次の言葉を緊張して待つ。
ロベリヤは状況が掴めず、きょとんとした表情で二人を見ている。
「貴方の名前、まだ聞いてなかったわ。」