トワイライトクライシス

「私の名前は、ユーリー・レイヤースと言います。」
少女はそう言って二人を見る。
「ここから北にいった所にある村から来ました。」
イスに座り話し始めた少女の話をエリカとロベリヤ達も座りながら聞く。
「実は村で病気が発生して・・・何人もの人達が死んだり寝込んだりしています。」
ユーリーは手を組み、目に涙を浮かべながら話し続ける。
「たまたま村にいたお医者様の話で、あるクスリが有れば何とかなるかもしれないと分かったんです。」
少女はそう言うと顔を上げて二人を見る。
「村の中で動ける人間は限られていました。みんな、病人の世話で手一杯ですから。」
そう言って少女は俯く。
「それに村の外に出たことのある人間はもっと限られてます。」
この時代、オーガーや自然の脅威の為、自分の住む所から一生出ずに過ごす連中も珍しくない。
町から町への物資輸送を行う隊商を別にすれば、好き好んで出歩くのはハンターくらいだろう。
「私は短い間ですが、他の街に行って働いたことがありました。」
ユーリーは顔を上げるとエリカとロベリヤを見る。
「それで私がここまでクスリを買いにきたのですが・・・」
横に置いてある箱を持ち上げてユーリーは溜息を付く。
「いざ帰ろうとしたら街道が閉鎖されたと言われて・・・。」
持ち上げた箱を胸に抱きユーリーは涙ぐむ。
「うーん、それはついてなかったな。今や街道中オーガーだらけだ。」
ロベリヤが天井を見上げてぼやく。
「はい、それで街道を行くならハンターを雇わないと駄目だと言われたのですが・・・」
ユーリーは箱を下ろすとエリカを見る。
「そんなお金もありません。そうしていたら宿屋のご主人がここを・・・」
その言葉にエリカは肩を竦める。
「要は、ここに来れば何とかしてくれると言われたわけね。」
頷くユーリーを見ながらエリカは苦笑いする。
「まったく･･あれは私を何だと思ってるのかしら。」
怒っているのか宿屋の主人を"あれ"呼ばわりするエリカ。
そんなエリカのぼやきにロベリヤは思わず笑ってしまう。
そのロベリヤを横目で睨みつけながら
「笑い事じゃないんだけどね。」
そう言ってエリカは腕を組む。
「あの・・・やはり駄目でしょうか？」
ユーリーは不安そうな顔でエリカを見る。
腕を組みしばらく考えていたエリカは二人に何も言わずに部屋を出て行く。
不安そうにしているユーリーにロベリヤが声を掛ける。
「大丈夫さ、エリカなら悪いようにしないさ。」
ユーリーの肩を軽く叩きウィンクするロベリヤ。
「はい。」
ユーリーはそんなロベリヤを見て少し安心した表情を見せる。

しばらくしてエリカが手に何かを持って戻ってくる。
「とりあえずその・・貴方の村の位置を教えてちょうだい。」
それを見てロベリヤが「そら、な」という表情をユーリーに向ける。
「そうですね」という表情を返すユーリー。
「何････？」
そんな二人を見てエリカは不思議そうな顔をするのだった。

店の前に出された４ＷＤ車にエリカとロベリヤは装備の積み込みをやっていた。
銃火器や水、食料や予備の燃料等････
それが終わるとエリカは何時も留守を頼んでいる隣の店に行く。
「おばさん、またしばらく店を頼みたいんだけど。」
エリカの店の隣は日用雑貨を売っている店で、エリカは度々留守を頼んでいた。
「おや、またお出かけかい･･･でも今は外は大変じゃないのかい？」
店を取り仕切っているおばさんが店内から出てきてエリカに言う。
「それだから行くんだけどね。」
エリカは苦笑いしながら答える。
「とりあえずよろしく。１週間で戻るつもりだから。」
おばさんは肩を竦めるとそれ以上聞かなかった。
「ああ、行っておいで。」

留守番を頼んでエリカは店の前の４ＷＤ車に戻ってくる。
既にロベリヤとユーリーの二人は乗り込んでいる。
店のカギを確認し４ＷＤ車に乗り込むエリカ。
助手席のロベリヤと後部座席のユーリーを見て言う。
「忘れ物はないわね、取りに戻るなら今のうちよ。」
二人は首を横に振る。
エリカは頷くと４ＷＤ車のエンジンを始動する。
手早くエンジンやハンドル、ブレーキの動作を確認すると発進させゲートに向う。

門番の男は先ほどから欠伸が止まらなかった。
この時期に街を出るなんていう物好きな連中なんてほとんどいない。
「ったくヒマだぜ･･･。」
そうぼやいていると街の方から一台の４ＷＤ車が向ってくるのが見える。
男はやれやれと感じで立ち上がると外に出る。
どうもそんな物好きな連中が来たらしい。
（さて、どんな物好きな野郎なんだ？）
男はそう思って近付いてくる車を見る。
ゲート前に止まった車を見て男はその物好きな連中の正体を知る。
「ありゃ･･･エリカ、お前さんかい？」
エリカはウィンドガラスを開けて男を見る。
「何の話かしら？」
男は慌てて手を振って答える。
「いやなんでもねえよ･･･それよりこの時期に旅行かい？」
エリカは肩を竦めると後ろを見る。
「お客さんをちょっと送り届けにね。」
男は後部座席のユーリーを見て驚く。
「こりゃまた･･･しかしお前さん毎回変わった同乗者を乗せているな。」
男は半ば呆れた感じで言う。
「どういう意味よ･･･それ。」
エリカが男を睨む。
「いや別に････それじゃ気をつけてな、そっちの姉さんもな。」
男はロベリヤに愛想笑いを向けて車を離れる。
「なんだいあいつは･･･？」
ロベリヤは呆れた顔で男を見送る。
エリカはそれに苦笑いしながら車を発進させる。
一方、男は車がゲートを出て行くのを見ていたが、ふと気付いた。
「しまった、また名前を聞くのを忘れたぜ。」

この男、相変わらずだった（笑）。